浅見(あさみ)さん、おはよう。あの、クラスマッチの競技のことで話があるんだけど、時間いい?」

 翌朝、登校したばかりの浅見さんに声をかける。

 出席番号が一番だからという理由でクラス委員を押し付けられた彼女は、その役割に関してきっと、前向きではない。

 だからだろう。私の言葉を聞いて、舌打ちでもしそうな表情をした。

「なに?」

 そして目も合わせずに、椅子に座る。

 態度だけでなく、声色からも機嫌が悪いのが伺える。

「競技を変更したいなって思って」
「古賀さんは、バスケだっけ。なにがいいの?」

 そう聞かれると、答えられない。

 ただバスケ以外がいいとしか考えていなかったから。

 でも、すぐに答えられなかったから、浅見さんは大きなため息をついた。

「あのさ。特にやりたいものがないのに変えてほしいって、わがまますぎない?」

 その通りだ。

 話し合いに参加せず、決まったことに文句を言うなんて、わがまま以外のなにものでもない。

 なんだか、昨日私が先輩たちにしたことが返ってきたような気がする。

「氷野さんが、古賀さんはバスケじゃないほうがいいって言ってたけど、バスケしか余らなくて、古賀さんは補欠ってことになってる。それでもバスケが嫌なら、他の競技の人たちと交渉してみたら?」
「……わかった。ありがとう」

 私は少しでも早くその場から離れたくて、なにも解決していないのに、自分の席に戻った。

 昨日、夏川先輩がなにも解決しないままにあの場を離れたのは、これと同じだったのかもしれない。

 私が責めた先輩も、逃げたかっただろう。でもあそこは吹奏楽部の練習場所で逃げ場はない。

 つまり、もし夏川先輩が私を連れ出さなかったら、あの先輩は私からの一方的な攻撃に耐えるしかなかったことになる。

 私はそれに、気付けなかった。

 自分が未熟すぎて、嫌になる。

「依澄、変えてもらえた?」

 自己嫌悪に陥っていると、咲楽が声をかけてきた。

 一瞬なんの話かと迷い、反応に遅れる。

「……いや、変えてもらってない」

 咲楽は眉を八の字にする。

「どうして? やっぱり、ダメって言われた?」

 ダメ、とは言われていない。

 ただ正論を投げつけられ、私が逃げてきただけ。

 だけど、それを知ると咲楽は浅見さんに怒鳴り込みそうで、私は笑って誤魔化す。

「自分で交渉してって言われたんだけど、私、まだ咲楽以外で仲良い人いないし、諦めようと思って。それに、咲楽のおかげで補欠らしいし?」

 明るく言ったはずなのに、咲楽はしょんぼりとしている。

「無力でごめん……」
「咲楽は悪くないって」

 そう言っても咲楽は落ち込んだままで、私は咲楽の頬を両手で挟み、無理矢理口角を上げる。

 すると、咲楽は少しだけ笑ってくれた。

 私は安心して、両手を離した。