◆
「おかえり。ねえ見て、ゴールデンウィークに花奈さんと言ったお店、SNSに上げたら過去一いいね貰えた」
教室で待っててくれた咲楽は、嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。
正直、今はそんな気分になれなくて、私は咲楽の席の後ろに座り、机に突っ伏した。
「ん? どうした?」
咲楽に聞かれ、さっきの夏川先輩の表情を思い出す。
『正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ』
夏川先輩は、悲しそうだった。
あれは、戸惑いだろうか。それとも、失望か。
なんにせよ、あまりいい感情を向けられたとは思えない。
「……夏川先輩に嫌われたかも」
言葉にすると、辛さが増す。
「依澄が? 夏川栄治に?」
咲楽の意外そうな声を聞きながら、身体を起こす。
大きく息を吐き出して、両手で顔を覆う。
「もう、なんで私、いつも言いすぎるんだろう。いつまで経っても学習しない自分が嫌い」
今回と似たような失敗は、いくつかある。
そのたびに後悔して、次は気を付けようって思うのに、なかなか上手くいかない。
何度も同じことを繰り返す自分に嫌気がさすし、なにより夏川先輩の前でやらかしてしまったのが、ダメージが大きい。
「正直なのはいいことだよ」
咲楽はいつだって、そう言ってくれた。
だから私は私をとことん嫌いにならずに済んでいたけど、今回ばかりは自分にそう言い聞かせることができなかった。
「……正直すぎるのはよくないって、夏川先輩に言われたの」
夏川先輩のあの悲しそうな眼は、しばらく忘れられそうにない。
私はまた、机に額を当てる。
こんな後悔をするために、夏川先輩に会いに行ったわけではないのに。
私はただ、夏川先輩に直接お祝いの言葉を言って、欲しいものを調査したかっただけなのに。
偶然、夏川先輩が責められている言葉を聞いてしまったから。それが聞き流すことのできないものだったから。
なんて、言い訳しか出てこない。
夏川先輩の表情を思い出して、またため息をつく。
「そんなことより、依澄」
私が悩んでいるのを、そんなこと扱いするなんて酷くないか。
そう思いながら顔を上げ、顎を机に付ける。
咲楽は深刻そうな、申しわけなさそうな顔をしている。
「クラスマッチの競技なんだけど、私と依澄、バスケになった」
私は背筋を伸ばし、数回瞬きをして、咲楽の言葉を反芻する。
クラスマッチの競技が、バスケ。
「……え?」
理解して、出てきた言葉はそれだけだった。
「バスケ」
聞き間違いであってほしいと願ったのに、咲楽はゆっくり、はっきりとそう言った。
「私、それだけはイヤって……」
私の声は震えていた。
咲楽は気まずそうに視線を逸らす。
「わかってる。でも、依澄が話し合いに参加しなかったから……バスケ以外がいいって言っても、聞いてもらえなかった」
そう言われてしまうと、咲楽を責められない。
今日は踏んだり蹴ったりだ。
「嫌な思いさせてごめん、咲楽。明日くらいに自分で交渉してみるよ」
そして私たちは教室を後にした。
「おかえり。ねえ見て、ゴールデンウィークに花奈さんと言ったお店、SNSに上げたら過去一いいね貰えた」
教室で待っててくれた咲楽は、嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。
正直、今はそんな気分になれなくて、私は咲楽の席の後ろに座り、机に突っ伏した。
「ん? どうした?」
咲楽に聞かれ、さっきの夏川先輩の表情を思い出す。
『正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ』
夏川先輩は、悲しそうだった。
あれは、戸惑いだろうか。それとも、失望か。
なんにせよ、あまりいい感情を向けられたとは思えない。
「……夏川先輩に嫌われたかも」
言葉にすると、辛さが増す。
「依澄が? 夏川栄治に?」
咲楽の意外そうな声を聞きながら、身体を起こす。
大きく息を吐き出して、両手で顔を覆う。
「もう、なんで私、いつも言いすぎるんだろう。いつまで経っても学習しない自分が嫌い」
今回と似たような失敗は、いくつかある。
そのたびに後悔して、次は気を付けようって思うのに、なかなか上手くいかない。
何度も同じことを繰り返す自分に嫌気がさすし、なにより夏川先輩の前でやらかしてしまったのが、ダメージが大きい。
「正直なのはいいことだよ」
咲楽はいつだって、そう言ってくれた。
だから私は私をとことん嫌いにならずに済んでいたけど、今回ばかりは自分にそう言い聞かせることができなかった。
「……正直すぎるのはよくないって、夏川先輩に言われたの」
夏川先輩のあの悲しそうな眼は、しばらく忘れられそうにない。
私はまた、机に額を当てる。
こんな後悔をするために、夏川先輩に会いに行ったわけではないのに。
私はただ、夏川先輩に直接お祝いの言葉を言って、欲しいものを調査したかっただけなのに。
偶然、夏川先輩が責められている言葉を聞いてしまったから。それが聞き流すことのできないものだったから。
なんて、言い訳しか出てこない。
夏川先輩の表情を思い出して、またため息をつく。
「そんなことより、依澄」
私が悩んでいるのを、そんなこと扱いするなんて酷くないか。
そう思いながら顔を上げ、顎を机に付ける。
咲楽は深刻そうな、申しわけなさそうな顔をしている。
「クラスマッチの競技なんだけど、私と依澄、バスケになった」
私は背筋を伸ばし、数回瞬きをして、咲楽の言葉を反芻する。
クラスマッチの競技が、バスケ。
「……え?」
理解して、出てきた言葉はそれだけだった。
「バスケ」
聞き間違いであってほしいと願ったのに、咲楽はゆっくり、はっきりとそう言った。
「私、それだけはイヤって……」
私の声は震えていた。
咲楽は気まずそうに視線を逸らす。
「わかってる。でも、依澄が話し合いに参加しなかったから……バスケ以外がいいって言っても、聞いてもらえなかった」
そう言われてしまうと、咲楽を責められない。
今日は踏んだり蹴ったりだ。
「嫌な思いさせてごめん、咲楽。明日くらいに自分で交渉してみるよ」
そして私たちは教室を後にした。