その声色は厳しく、七瀬さんは口を閉じてしまう。
僕も、反論の余地がなく口が挟めない。
「ねえ、夏川。私たちはどんな気持ちで撮られたらいいの?」
その強い視線に圧倒されてしまい、僕は答えられなかった。
誤解だと言っても、信じてくれないような雰囲気。
この空気感に負けたくないと思っていた僕は、どこに行ってしまったのか。
「僕はみんなの自然な表情を残したくて、写真を撮ってる」
すると、僕ではない芯の通った声で、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。
振り向くと、古賀が立っていた。
怒っているようで、切なさを隠した瞳をしながら教室に入り、僕たちの前に立つ。
「夏川先輩は、先輩たちの素敵な表情を残したくて、写真を撮っていると言っていました。それは、私よりも先輩たちのほうが知っているんじゃないんですか」
古賀は物怖じせず言ってくれたけど、ここまで明け透けにされると、恥ずかしくなってくる。
ただ、このままではマズイと思った。
僕は動かなかった身体に命令し、一歩踏み出す。
「古賀、もういいから」
そっと古賀の肩に触れると、古賀は僕の手を容赦なく振り払った。
そして僕と向き合う。
「なにもよくないです。誰かに嫌な思いをさせたかもしれないって悩むくらい、先輩は優しい人なのに……変な誤解されたままなのは、私は嫌です」
古賀は本当に悔しそうな顔をしている。
僕よりも悔しそうだ。
僕の過去に触れる言葉は躊躇うのに、伝えなければいけないことはストレートに言うところを、僕は素敵だと思う。
だけど、これ以上の素直な言葉は、強すぎる。言わないほうがいいに決まっている。
篠崎さんたちに視線を移すと、古賀の思いはしっかりと届いたようで、申しわけなさそうにしている。
ここで僕が弁明してしまうと、篠崎さんはますます立場が悪くなるだろう。
「ごめん、七瀬さん、篠崎さん。写真はまたの機会にするよ」
そして僕は納得していない古賀の腕を引っ張って、教室を離れる。
ある程度進むと、古賀が僕の腕を振り払った。
「夏川先輩、どうして逃げるんですか」
古賀の強い声、まっすぐな瞳が僕に向く。
これを向けられると、なにもしていなくても、責められているような気分になりそうだ。
しかし負けてはいられない。
「……古賀が正しすぎるからだよ」
僕が古賀を傷付けてしまわないように、言葉を選びつつ言う。
すると、古賀の瞳に迷いが混ざった。
「でも、言わないと伝わらないじゃないですか」
視線が泳ぎ、目が合わなくなる。
声が小さくなり、古賀は僕の言おうとすることを既に理解しているのだとわかる。
それでも納得できない理由が、きっとあるのだろう。
「……そうだね、その通りだ。でもあれ以上言うと、篠崎さんの立場がない。正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ」
思い当たる節があるのか、もう一度僕を見た古賀は、苦しそうに視線を落とした。
古賀が口を噤んだことで、重い沈黙が訪れる。
僕も、反論の余地がなく口が挟めない。
「ねえ、夏川。私たちはどんな気持ちで撮られたらいいの?」
その強い視線に圧倒されてしまい、僕は答えられなかった。
誤解だと言っても、信じてくれないような雰囲気。
この空気感に負けたくないと思っていた僕は、どこに行ってしまったのか。
「僕はみんなの自然な表情を残したくて、写真を撮ってる」
すると、僕ではない芯の通った声で、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。
振り向くと、古賀が立っていた。
怒っているようで、切なさを隠した瞳をしながら教室に入り、僕たちの前に立つ。
「夏川先輩は、先輩たちの素敵な表情を残したくて、写真を撮っていると言っていました。それは、私よりも先輩たちのほうが知っているんじゃないんですか」
古賀は物怖じせず言ってくれたけど、ここまで明け透けにされると、恥ずかしくなってくる。
ただ、このままではマズイと思った。
僕は動かなかった身体に命令し、一歩踏み出す。
「古賀、もういいから」
そっと古賀の肩に触れると、古賀は僕の手を容赦なく振り払った。
そして僕と向き合う。
「なにもよくないです。誰かに嫌な思いをさせたかもしれないって悩むくらい、先輩は優しい人なのに……変な誤解されたままなのは、私は嫌です」
古賀は本当に悔しそうな顔をしている。
僕よりも悔しそうだ。
僕の過去に触れる言葉は躊躇うのに、伝えなければいけないことはストレートに言うところを、僕は素敵だと思う。
だけど、これ以上の素直な言葉は、強すぎる。言わないほうがいいに決まっている。
篠崎さんたちに視線を移すと、古賀の思いはしっかりと届いたようで、申しわけなさそうにしている。
ここで僕が弁明してしまうと、篠崎さんはますます立場が悪くなるだろう。
「ごめん、七瀬さん、篠崎さん。写真はまたの機会にするよ」
そして僕は納得していない古賀の腕を引っ張って、教室を離れる。
ある程度進むと、古賀が僕の腕を振り払った。
「夏川先輩、どうして逃げるんですか」
古賀の強い声、まっすぐな瞳が僕に向く。
これを向けられると、なにもしていなくても、責められているような気分になりそうだ。
しかし負けてはいられない。
「……古賀が正しすぎるからだよ」
僕が古賀を傷付けてしまわないように、言葉を選びつつ言う。
すると、古賀の瞳に迷いが混ざった。
「でも、言わないと伝わらないじゃないですか」
視線が泳ぎ、目が合わなくなる。
声が小さくなり、古賀は僕の言おうとすることを既に理解しているのだとわかる。
それでも納得できない理由が、きっとあるのだろう。
「……そうだね、その通りだ。でもあれ以上言うと、篠崎さんの立場がない。正しすぎる言葉は、ときに他人を傷付けるんだよ」
思い当たる節があるのか、もう一度僕を見た古賀は、苦しそうに視線を落とした。
古賀が口を噤んだことで、重い沈黙が訪れる。