その背中からも落ち込んでいるのがわかる。

 そして矢崎先生は椅子に腰を下ろすと、身体を僕たちのほうに向ける。

 残念そうな顔がはっきりと見え、前言撤回をしたくなってしまう。

「また夏川君の写真が見れるのを楽しみにしていたのですが……そう、一年生にもいるんですよ。夏川君の写真を待ち望んでいる子」

 矢崎先生の表情は少しだけ明るくなる。

 その視線で、“知っていますか?”と言われている気がした。

「……古賀依澄、ですか?」

 僕が名前を答えると、矢崎先生は小さな声で笑った。

「やっぱり古賀さんは、夏川君に直撃したんですね」

 やっぱりということは、あの勢いでここを訪れたのだろうか。

 それを想像するのは容易く、そして“直撃”という言葉があまりにも相応しくて、思わず苦笑する。

 一方で、古賀が僕の写真を楽しみにしているというのは、殺し文句に近かった。

 やってみたいと思うけど、どうしても、みんなの僕に向ける視線が頭をよぎって、頷けなかった。

「なあ栄治、やりたくないわけじゃないんだよな?」

 すると、横で聞いていた佐伯に確認され、僕は曖昧に頷く。

「じゃあ、噂を撤回していこうぜ。みんなの誤解が解けたら、元通りじゃん。ほら、カメラ持って」

 佐伯は無茶苦茶な理論を並べて、僕にカメラを持たせると、僕の腕を引っ張った。

 視界の端に見えた矢崎先生に小さく手を振られ、僕は抵抗するのを諦め、大人しく佐伯について行くことにした。

 ある程度進むと、佐伯は僕が逃げないと判断したようで、手を離した。

 廊下を歩いていると、あちこちから部活に勤しむみんなの声や音が聞こえてくる。

 もう、あのときみたいに疎外感を抱く必要はないのだろうか。

 そう思うと、一度だけ立ち止まってその音に浸りたくなるけど、佐伯が先に進むせいで、できなかった。

 若干置いていかれてしまい、小走りでその差を縮める。

「噂を撤回って、どこに行くつもりなんだよ」

 僕が聞くと、得意げな笑みが返ってきた。

「他所の部活に決まってるだろ。前みたいに、写真を撮らせてもらうんだ」

 それはつまり、荒療治というものだろう。

 僕は不安しか芽生えないのに、佐伯は一切感じていなさそうだ。

 他人事と思っていそうで、ため息しか出ない。

 なにを言っても聞き入れてくれなさそうだったから、諦めてただ佐伯の行く先について行く。

 そして辿り着いたのは、三年生の教室だった。

 そこでは、吹奏楽部のフルート奏者が練習をしている。

 ワンフレーズを繰り返し練習している音が聴こえてくる。

 僕も佐伯も、どのタイミングで入ればいいのかわからなくて、先に教室に入るのを押し付け合う。

 僕が佐伯の背中を押すと、佐伯は僕の後ろに回って、僕の背中を押す。そして僕が佐伯の後ろに移動して、というのをバカみたいに繰り返した。