◆
「栄治、ハピバ」
誕生日の朝、自分の席でホームルームが始まるのを待ちながら、スマホでゴールデンウィークの写真を振り返っていると、それを邪魔するように、佐伯がプレゼントを差し出してきた。
それは意外と大きくて、スマホの画面は簡単に見えなくなった。
「……ありがとう」
プレゼントは嬉しいけど、差し出し方が気に入らなくて、迷惑そうな言い方になってしまった。
「開けてみて」
僕が受け取ると、佐伯はまったく気にせず、それどころかニヤニヤとしながら言う。
なにか企んでいるのは一目瞭然だ。
警戒しながら、包装を解いていく。
出てきたのは、マット素材の青色表紙でできたアルバム。
佐伯にしてはオシャレなものだけど、表情の割に普通のものが出てきて、薄い反応になってしまった。
だけど、佐伯はまだ嫌な笑みを浮かべている。
まだなにか仕込んでいるのかと思って、アルバムを開いてみる。
一枚だけ、写真が入っている。
海での、僕と古賀の写真だ。
佐伯と氷野にからかわれた瞬間の写真。
楽しかった記憶はあるけど、こうして写真に残されていると、恥ずかしくなる。
「なんでこれ?」
「栄治が写真を再開した、記念の写真だろ?」
「それはそうだけど……」
だからといって、誕生日プレゼントにされるのは照れる。
僕のそんな反応すら、佐伯は楽しんでいる。
「これから、いろんな写真が増えるといいな」
そう言われると、このプレゼントの価値が一気に上がった気がした。
「お。夏川、柚木先輩は諦めて、あの後輩に乗り換えたのか?」
背後から聞こえ、背筋が凍った。
振り向くと、クラスの中心人物である高宮君が、アルバムを覗き込んでいる。
『いい加減、認めろって。柚木先輩が好きなんだろ?』
決めつけてかかる声を、思い出す。
あのときと同じような空気が教室に流れ、喉が閉まった気がする。
「あの素直そうな子なら、狙えそうだもんな」
高宮は僕の手からアルバムを取り上げた。
僕と古賀のことをからかってくる人は何人かいたけど、これほど悪質な予感がしてならない。
「……やめてくれ」
僕が立ち上がって取り返すと、教室内が静まり返った。
前の僕は、この空気に負けて言葉を飲んだ。
でも、今は負けたくない。
「その言葉は、花奈さんにも古賀にも失礼だ。二度と、そんなふうに言うな」
僕にしては珍しい強い言葉に、高宮は戸惑いを見せる。
「……冗談じゃん」
「冗談ならなにを言っても許されるわけじゃないからな」
佐伯も同じように、高宮に敵意を向ける。
高宮は舌打ちをして、僕たちから離れていく。
「まだあんなふうに言う奴がいるんだな」
佐伯が呆れた声で言うのを聞きながら、席に着く。
「仕方ないよ。噂、かなり広まってたし」
僕よりも佐伯のほうが怒っているように見えて、改めていい友達を持ったと思った。
「そんなことより、栄治。今日の放課後、暇?」
「特別予定はないけど」
佐伯のにやけ面を見ると、前言撤回したくなる。
またよからぬことを企んでいそうだと思いながら、ホームルームの始まりを告げるチャイムを聞いた。
「栄治、ハピバ」
誕生日の朝、自分の席でホームルームが始まるのを待ちながら、スマホでゴールデンウィークの写真を振り返っていると、それを邪魔するように、佐伯がプレゼントを差し出してきた。
それは意外と大きくて、スマホの画面は簡単に見えなくなった。
「……ありがとう」
プレゼントは嬉しいけど、差し出し方が気に入らなくて、迷惑そうな言い方になってしまった。
「開けてみて」
僕が受け取ると、佐伯はまったく気にせず、それどころかニヤニヤとしながら言う。
なにか企んでいるのは一目瞭然だ。
警戒しながら、包装を解いていく。
出てきたのは、マット素材の青色表紙でできたアルバム。
佐伯にしてはオシャレなものだけど、表情の割に普通のものが出てきて、薄い反応になってしまった。
だけど、佐伯はまだ嫌な笑みを浮かべている。
まだなにか仕込んでいるのかと思って、アルバムを開いてみる。
一枚だけ、写真が入っている。
海での、僕と古賀の写真だ。
佐伯と氷野にからかわれた瞬間の写真。
楽しかった記憶はあるけど、こうして写真に残されていると、恥ずかしくなる。
「なんでこれ?」
「栄治が写真を再開した、記念の写真だろ?」
「それはそうだけど……」
だからといって、誕生日プレゼントにされるのは照れる。
僕のそんな反応すら、佐伯は楽しんでいる。
「これから、いろんな写真が増えるといいな」
そう言われると、このプレゼントの価値が一気に上がった気がした。
「お。夏川、柚木先輩は諦めて、あの後輩に乗り換えたのか?」
背後から聞こえ、背筋が凍った。
振り向くと、クラスの中心人物である高宮君が、アルバムを覗き込んでいる。
『いい加減、認めろって。柚木先輩が好きなんだろ?』
決めつけてかかる声を、思い出す。
あのときと同じような空気が教室に流れ、喉が閉まった気がする。
「あの素直そうな子なら、狙えそうだもんな」
高宮は僕の手からアルバムを取り上げた。
僕と古賀のことをからかってくる人は何人かいたけど、これほど悪質な予感がしてならない。
「……やめてくれ」
僕が立ち上がって取り返すと、教室内が静まり返った。
前の僕は、この空気に負けて言葉を飲んだ。
でも、今は負けたくない。
「その言葉は、花奈さんにも古賀にも失礼だ。二度と、そんなふうに言うな」
僕にしては珍しい強い言葉に、高宮は戸惑いを見せる。
「……冗談じゃん」
「冗談ならなにを言っても許されるわけじゃないからな」
佐伯も同じように、高宮に敵意を向ける。
高宮は舌打ちをして、僕たちから離れていく。
「まだあんなふうに言う奴がいるんだな」
佐伯が呆れた声で言うのを聞きながら、席に着く。
「仕方ないよ。噂、かなり広まってたし」
僕よりも佐伯のほうが怒っているように見えて、改めていい友達を持ったと思った。
「そんなことより、栄治。今日の放課後、暇?」
「特別予定はないけど」
佐伯のにやけ面を見ると、前言撤回したくなる。
またよからぬことを企んでいそうだと思いながら、ホームルームの始まりを告げるチャイムを聞いた。