そんな二人を追うように進もうとすると、横からシャッターの音がした。

「夏川先輩……勝手に写真を撮るのはやめてください」
「……ごめん」

 落ち込んだ先輩を見ると、私のほうが悪いことをしているような気分にさせられる。

 私は居心地が悪くなって、夏川先輩から逃げるように歩き出す。

「あの、もし嫌なら消してもらっていいんだけど」

 夏川先輩は遠慮気味に言いながら、スマホを見せてくれる。

 さすがに、人のスマホを操作するのは抵抗があって、受け取れなかった。

「好きに見ていいよ」

 夏川先輩が言うから、先輩のスマホを受け取り、スライドしていく。

 さっきの咲楽たちを見つめている横顔に始まり、ボウリング場での写真が次々と表示される。

 ストライクを取って喜ぶ柚木先輩。上手く投げられなくて拗ねる咲楽。夏川先輩たちに煽られて悔しそうにする佐伯先輩。

 私が憧れた世界が、そこには詰まっていた。

 笑顔だけじゃなくて、いろんな表情が溢れる、楽しそうな世界。

 たまに私の写真があって、私もその一人なのだと知る。

 夏川先輩の世界に入れてもらえたのに、それを自ら消すなんてことは、できなかった。

 一通り今日の写真を見てから夏川先輩にスマホを返すと、先輩は少し驚いたように私を見る。

「消さなくていいの?」

 “消したくないんです”

 そう答えればいいだけなのに、私は照れくさくて頷いて応えた。

 海のときもそうだったけど、夏川先輩が撮ってくれる私が残るのは、嫌いじゃない。

 かといって、ほんの数分で言うことを変えるのはどうかと思って、私は許可するようなことを言えなかった。

「夏川先輩って、みんなが気付いていないうちに写真を撮っているんですね」

 話題に迷って言ったけど、よく考えると、盗撮だと責めたような物言いになってしまった。

 そのせいで、夏川先輩は困ったような笑顔を作った。

「僕はみんなの自然な表情を残したくて、写真を撮ってる。だから、どうしても盗撮みたいな写真が増えるんだけど……今思えば、古賀みたいに嫌だって思ってる人も、いたかもね」

 私は言葉に困った。

 夏川先輩にこんな表情をさせたかったわけじゃないのに。

「私は、栄治くんに撮られてイヤな気持ちになった人、少ないと思うよ」

 助け舟を出してくれたのは、柚木先輩だ。

 だけど、夏川先輩はそれを受け入れられないみたいだった。

「イヤだったら、栄治くんの周りが笑顔で溢れるわけないもん」

 その光景が想像できなくて、柚木先輩がウソを言っているのではないかと思った。

 だけど、佐伯先輩が頷いているから、ウソではないらしい。

「まあ、笑ってるとき以外に撮られるのは、あまりいい気分しないけど」
「ごめんって」

 柚木先輩が意地悪そうに言うと、夏川先輩はすかさず謝った。