柚木先輩は私たちが聞いているものだと思っていたみたいだけど、夏川先輩は二人増えることしか教えてくれなかったのだから、知るわけがない。

 でも、言われてみると似ているような、似ていないような。

 初めて夏川先輩に会ったときの、私を突き放すような少し冷たい視線は似ているかもしれない。

 そんなことを思い返していると、柚木先輩と遥哉先輩が同時にボールを投げた。

 二人ともストライクという、最高の出だしだ。

 柚木先輩がピースサインをして喜ぶのに対して、遥哉先輩は表情を変えない。

 二人が並ぶとたしかに絵になるけど、こうも正反対だと、恋人同士なのかと疑ってしまう自分がいる。

「次、依澄ちゃんと栄治くんね」

 私は緊張しながらボールを持つ。

 遠くのレーンからピンを倒す音が聞こえて、それがまたプレッシャーのように感じた。

 こんなに緊張するのは、久しぶりだ。

「大丈夫?」

 横から、夏川先輩が心配そうに見てくる。

「……はい、大丈夫です」

 自分にそう言い聞かせて、前を真っ直ぐ見る。

 ボールを構えて、ゆっくりと歩を進め、さっきの柚木先輩の投げ方を思い出しながら投げる。

 いい感じに直進していたと思えば、最後の最後で曲がってしまって、六本倒すという中途半端な結果になってしまった。

「依澄ちゃん、いい感じ! 次で全部倒せるよ!」

 柚木先輩の大きな声援で、本当にできそうな気がしてくる。

 戻ってきたボールを持ち、深呼吸。

 そして残ったピンを目掛けて投げる。

 当たる前からわかってしまったのだけど、ボールは一本も倒さずに奥に吸い込まれた。

「惜しい、惜しい」

 席に戻ると、柚木先輩がすぐにそんな声掛けをしてくれた。

 おかげで、次も頑張ろうという気持ちになる。

 そして電光掲示板を見上げると、夏川先輩がストライクを取っていたことに気付いた。

「憎たらしいよね、夏川兄弟。遥哉くんはサラッとストライクだし、栄治くんなんか、写真を撮ることに集中してるくせに、ストライクなんだよ」

 柚木先輩は周りの音に打ち消されてしまうから、私の耳元で言った。

 夏川先輩は準備をしている佐伯先輩にスマホを向けている。

 先輩が写真を撮るようになってくれたのは嬉しいけど、勝負に集中していないというのは、少しムカつくかもしれない。

「ここは是非とも、栄治くんのかっこ悪いところを写真に残さないと、だよね」

 柚木先輩は悪い顔をしている。

 たしかに、今の私のガターが記録に残されているとしたら、夏川先輩の失敗が残らないのは、不平等だ。

 こんなことはあまりしたくないけど、きっと、この人たちなら大丈夫な気がした。

「……ですね」

 私たちがそんなやり取りをしている間に、咲楽がボールを構えた。

 佐伯先輩も同じペースで歩き、ほぼ同時に投げる。

 そして綺麗に、二人ともガターとなった。

 咲楽は振り向き、頬を膨らませる。

「大丈夫だよ、咲楽ちゃん。次いける!」

 柚木先輩の応援は虚しく、もう一度ガター。

「つまんない」

 まだ始まったばかりなのに、咲楽はすっかり拗ねてしまった。