「いや、あの、悪い意味じゃなくて、美男美女でお似合いだなって思って」

 慌てて弁明すると、柚木先輩はますます笑顔になる。

「ありがとう、依澄ちゃん。すごく嬉しい」

 本当に、優しさの象徴みたいな人だ。

 私と同じように素直な人なのに、私とは全然違って、なんだか泣きたくなってしまう。

「よし、じゃあ行きますか」

 メンバーが揃ったということで、佐伯先輩の声掛けにより、私たちはボウリング場に向けて出発した。

「そうだ、提案」

 先頭を歩く佐伯先輩が手を挙げた。

「男女で分かれて、勝負しませんか」

 弾んだ声なのに、みんなが賛成しないから、佐伯先輩の表情が少しだけ落ち込んで見える。

「いいね、やろう」

 夏川先輩も柚木先輩の彼氏さんも面倒そうにしているのに、柚木先輩は乗った。

 その一言で、佐伯先輩に元気が戻ってくる。

「負けたチームは、勝ったチームにケーキ奢ってね」

 柚木先輩が悪い顔をして、そんな提案までするとは思わなかった。

「それ、花奈が食べたいだけだろ」

 隣を歩く彼氏さんがため息混じりに言うと、柚木先輩は小さく頬を膨らませた。

「じゃあ、遥哉くんはなにが食べたいの?」

 柚木先輩の質問に、彼氏さんは答えない。

 柚木先輩は答えを迫っているけど、そんなことよりも、私は柚木先輩の彼氏さんの名前を知らなかったことに気付いた。

 そういえば、お互いに自己紹介をしていない。

「お昼ご飯を奢る、でいいんじゃない?」

 名乗るべきか悩んでいると、夏川先輩が間に入って提案した。

 みんなそれに賛成のようで、その話は終わり、適当に雑談をしているうちに、私たちは目的地に到着した。

 滅多に来ない場所だからか、変に緊張する。

 私と咲楽は夏川先輩たちの背を追って、中に入った。

 今いるお客さんたちが倒すピンの音が聞こえてくる。

 その大きな音に少し怯え、きっと二人揃って、物珍しいものを見ているような反応をしていることだろう。

「依澄ちゃん、咲楽ちゃん、ここに名前書いて。あだ名でもいいよ」

 柚木先輩に手招きされ、柚木先輩が指すところを見ると、すでに『カナ』と書いてある。

 私はその下に『いずみ』、咲楽は『サクラ』と書いた。

 ゲーム代を支払って、靴を借りて、ボールを選ぶ。

「重た……」

 咲楽が呟くのに頷き、私も咲楽も両手でそれを運ぶ。

 新しい体験だらけで、まだ本番ではないのに、楽しくなってくる。

 咲楽も同じらしく、私たちは顔を見合せて笑う。

「そうそう、遥哉くんたちの隣のレーンにしてもらったから」

 柚木先輩の進む先には、もう準備を終えた男子三人がいる。

 遥哉先輩の容姿、雰囲気は女子の視線を誘うもののようで、柚木先輩は若干不服そうにしながら、隣のレーンに進む。

 柚木先輩がしたようにボールを置き、頭上にある画面を見ると、私は目を疑った。

「ナツカワ1、2、3……?」

 読み上げてなお、わからない。

「もう、佐伯くんは夏川じゃないでしょ」
「だって、二人とも名前決め面倒だからって、苗字にして、そしたら俺だけ仲間はずれになるんだよ? そんなの、嫌じゃん」

 子供のような言い訳だけど、その言い方よりも、一つ気になることが。

「遥哉先輩も、夏川っていうんですか?」
「あれ、知らない? 遥哉くんと栄治くんは兄弟なんだよ」