実際、大学生活は新しい友達、新しい勉強、新しい環境と刺激に満ちていた。最初は新しいことだらけで、しかも一人暮らしを始めたため不安でいっぱいだった。けれどそんな不安も、数ヶ月もすれば目の前の楽しいことで吹き飛ばされていった。
勉強の要領も掴み、サークルにも入った。新しい友達もできて大学一回生の夏、九州に帰省する頃にはすっかり大学生活を謳歌していた。
「真斗君と付き合うことになったの」
「そうなん? おめでとう!」
周りの友達にも恋人ができ始める時期。サークル内でカップルができることが多く、同じクラスの友達は誰々先輩と付き合っているらしい、という噂も回り始める。そんな話を聞いていると、純粋にいいなと思ってしまう。
私も新しい恋人が欲しい。
しかし、高校とは違い毎日強制的に特定の人物と顔を合わせられることのない大学生活において、恋人はおろか好きな人さえなかなかできることはなかった。
ちょっと気になるという人がいても、自分からデートや遊びに誘わない限り、先には進めない。迷っているうちに「こんな曖昧な気持ちでお誘いしてもいいのか」と葛藤し、結局は友達止まり、ということが多くなった。
高校とは違い、大学での恋愛の難しさに辟易していた。
上手くいかない、と分かるとどうしても高校時代を思い出してしまう。桐生陸と別れるとき、散々傷ついて泣いたはずなのに、二人で過ごした幸せな日々がフラッシュバックする。思い出は美化されるというけれど、正確には違う。傷つけられた思い出が美化されたのではなく、楽しかった思い出だけを思い出すように脳が命令しているようだった。