それは高校三年生の7月。いつものように彼に就寝前の連絡を取ろうとしていたところだった。受験生になってLINEをやめ、再びメールでやりとりをするようになり、私は彼からの新着メールに気がついた。
『もう終わりにしようって思って』
目に飛び込んできた言葉に、頭の中が一瞬にして真っ暗になった。
それが何を意味するのかはすぐに分かった。
途端、最近彼が「忙しいから」と一緒に帰るのを拒むようになったのを思い出す。私よりもクラスの他の女の子とよく話すようになったのを思い出す。
『俺は萌生を幸せにできない』
嘘だ、という言葉が頭の中を反芻する。
嘘だ。
だってあんなに好きだって言ったじゃないか。
結婚しようって言ったじゃないか。
誕生日にくれた手紙に、絶対に幸せにするって書いてくれたじゃないか。
彼が私にくれた言葉たちが、頭の中で弾けて泡となって消えていく。
あれは全部、嘘だったというの……?

震える指で「考え直して欲しい」というようなことを送った。実際になんと送ったか記憶がぼやけて覚えていない。とにかく別れたくないと彼を引き止めるのに必死で、見苦しい気持ちを言葉にしてぶつけて、余計彼を困らせた。
その後実際に会って話をしたけれど、結局彼の意思は変えられなかった。別れの理由も言わず、頑なに私を拒む彼を見て、ただただ悲しくてひたすら泣いて、気がつけば一週間で2kgも体重は減り、夜眠れなくなった。
友達や仲良しの先生の前でみっともなく泣き、「あなたを傷つける人は絶対にあなたを幸せになんかできないよ」と励ましてもらってなんとか立ち直れたと思っていたのだが。彼がその後教室で別の女の子と楽しそうに話しているのを見せつけられる度に、別れの際の傷はどんどん深くなっていく。彼のことを考えまいと勉強に集中するフリをして、耳はしっかりと彼と彼女の会話を拾ってしまう。会話の内容自体はしょうもないことだったけれど、そのしょうもない話を、私は彼と長いことできていなかったんだと気づいた。
せっかく同じクラスになれたのに。先生たちが取り計らってくれて私たちの最後の一年を楽しませようとしてくれたのに。今はそれが逆に仇となり、受験生の私を鞭で打つように痛めつけた。
何度も傷を抉られながら冬が来て本格的な受験シーズンがやってくると、彼は例の彼女と付き合いだした。その頃にはもう彼らのことを見ないフリをするのが上手くなっていた。けれど、意識はずっと二人の方へと向いていた。彼を見返すためだけに勉強に打ち込みもした。早朝から勉強を始め、不眠症を悪化させながら日々勉強のことだけを考えようと努める。そのおかげか、私は第一志望の京都の大学に合格した。