彼との交際はとても順風満帆だったように思う。片想い期間がほとんどなかったにもかかわらず、彼への気持ちはどんどん大きくなっていた。同時に、彼も私のことを大切にしてくれているということが言葉や態度の端々から伝わってきた。
私たちは24時間、言葉通り四六時中お互いのことを考えて生きていた。
メールからLINEでやりとりをするようになると、毎日大量にメッセージを送り合った。学校でも顔を合わせるくせに、どうしてこんなに話すことがあるんだろうかと今では不思議に思うくらい、彼とつながっていた。私も彼も返信がマメな方だったので、メッセージは常に即レスで、まるで隣に彼がいておしゃべりをしているかのように1分おきにやりとりをしていた。
好きとか愛してるとか、彼はそういう些細な言葉を何度も私にくれる。大人になった今考えると恥ずかしくて絶対に口にしないようなことを連発して、それにいちいち感動したりキュンとしたり、思春期真っ只中の私にとっては毎日が刺激的で楽しくて仕方がなかったのだ。
「俺さ、萌生のことすごいと思っとるよ」
私たちはよく近所の公園で落ち合って話をした。ただ二人で並んで話すだけのデートだ。買い物に行ったり映画に行ったりするデートはもちろん楽しいけれど、私はこの公園でのひと時がもっと好きだった。
「なんで?」
「だってなんかすごい真面目やし。勉強だってできるし、それに俺のことめちゃ好きやし」
「最後の何なん」
「いやーだって、好きなのめっちゃ伝わってくるもん」
「そりゃそうでしょ。だって好きだもん」
真面目な雰囲気で始まるただの浮ついた会話も、お互いの悩みを打ち明けるような真剣な会話も、彼が紡ぐのは全部大切な言葉たちだ。彼は同い年の男の子に比べるといくらか精神年齢が高いように感じたし、自分でもそれを弁えているらしい。「俺は女の子と会話する方が気が合うんよね」と得意げに言うのだ。
「女子の方が男子より3歳ぐらい精神年齢が高いっていうもんね」
「そうっちゃん。やけん、こうして萌生とも仲良くなれたとって」
いたずらっ子のように笑う彼。私は彼が「女の子の方が気が合う」という理由がなんとなく分かっていた。とにかく口が達者だし、話し好きで二人でいる時は永遠と他愛もない話をすることができたから。
「でもほんと、ありがとう。いや面と向かっていうのは照れくさいけど、いっつも思ってる」
今の気持ちは今言葉にしなければ伝わらない。彼はそう心得ているようで、自分の気持ちを伝えることに出し惜しみをしない。だから私は彼の言葉は誰の言葉よりも信用していた。
「いつか結婚しような」
「うん」
高校生同士の「結婚しよう」なんて、どれだけ本気で実現するか分からない。たぶんほとんどの場合は単なる口約束で終わってしまうんだろう。
でも、この時の私は彼の言葉を絶対的に信じていた。この先何年経っても二人並んで歩いていくものだと思っていたし、たとえ別々の進路に進んでも、その先で道は必ず一つになるものだと確信していた。
私は本気で、桐生陸と結婚するつもりだった。
たいていの高校生カップルが短期間で破局してしまうものだというデータが出ていたとしても、自分は、自分たちは例外だと信じていた。
私たちは24時間、言葉通り四六時中お互いのことを考えて生きていた。
メールからLINEでやりとりをするようになると、毎日大量にメッセージを送り合った。学校でも顔を合わせるくせに、どうしてこんなに話すことがあるんだろうかと今では不思議に思うくらい、彼とつながっていた。私も彼も返信がマメな方だったので、メッセージは常に即レスで、まるで隣に彼がいておしゃべりをしているかのように1分おきにやりとりをしていた。
好きとか愛してるとか、彼はそういう些細な言葉を何度も私にくれる。大人になった今考えると恥ずかしくて絶対に口にしないようなことを連発して、それにいちいち感動したりキュンとしたり、思春期真っ只中の私にとっては毎日が刺激的で楽しくて仕方がなかったのだ。
「俺さ、萌生のことすごいと思っとるよ」
私たちはよく近所の公園で落ち合って話をした。ただ二人で並んで話すだけのデートだ。買い物に行ったり映画に行ったりするデートはもちろん楽しいけれど、私はこの公園でのひと時がもっと好きだった。
「なんで?」
「だってなんかすごい真面目やし。勉強だってできるし、それに俺のことめちゃ好きやし」
「最後の何なん」
「いやーだって、好きなのめっちゃ伝わってくるもん」
「そりゃそうでしょ。だって好きだもん」
真面目な雰囲気で始まるただの浮ついた会話も、お互いの悩みを打ち明けるような真剣な会話も、彼が紡ぐのは全部大切な言葉たちだ。彼は同い年の男の子に比べるといくらか精神年齢が高いように感じたし、自分でもそれを弁えているらしい。「俺は女の子と会話する方が気が合うんよね」と得意げに言うのだ。
「女子の方が男子より3歳ぐらい精神年齢が高いっていうもんね」
「そうっちゃん。やけん、こうして萌生とも仲良くなれたとって」
いたずらっ子のように笑う彼。私は彼が「女の子の方が気が合う」という理由がなんとなく分かっていた。とにかく口が達者だし、話し好きで二人でいる時は永遠と他愛もない話をすることができたから。
「でもほんと、ありがとう。いや面と向かっていうのは照れくさいけど、いっつも思ってる」
今の気持ちは今言葉にしなければ伝わらない。彼はそう心得ているようで、自分の気持ちを伝えることに出し惜しみをしない。だから私は彼の言葉は誰の言葉よりも信用していた。
「いつか結婚しような」
「うん」
高校生同士の「結婚しよう」なんて、どれだけ本気で実現するか分からない。たぶんほとんどの場合は単なる口約束で終わってしまうんだろう。
でも、この時の私は彼の言葉を絶対的に信じていた。この先何年経っても二人並んで歩いていくものだと思っていたし、たとえ別々の進路に進んでも、その先で道は必ず一つになるものだと確信していた。
私は本気で、桐生陸と結婚するつもりだった。
たいていの高校生カップルが短期間で破局してしまうものだというデータが出ていたとしても、自分は、自分たちは例外だと信じていた。