きっかけは高校一年生の席決めくじ引きで、私が真ん中の列の後ろから2番目の席を引き当てたことだった。
「ねえ萌生(めい)、あたしと席交換してくれない?」
ちょうど私の真後ろ、つまり真ん中の列の一番後ろの席を引いた友人が、私の肩を叩いてそう主張した。
「別にいいよ」
「ありがとう!」
どの席に座るかということに特にこだわりのなかった私は彼女からの提案を快諾して彼女と席を交換した。
当たり前だが一番後ろの席は黒板から一番遠い。だから希望する生徒が多いのに、なぜか彼女は真ん中の席がいいらしい。もしかしたら目が悪いのかも、と思い至る。しかし私も目が悪いし大丈夫かなとちょっと心配になった。
「葉方さんよろしく」
ぼうっと考え事をしていたら、ちょうど隣の席に座っていた男の子から声をかけられた。
「よろしくね、桐生くん」
彼の名前は桐生陸(きりゅうりく)くん。つんつん頭がトレードマークの男の子で、見たところ明るい性格をしている。女の子とも喋り慣れているようで、クラスの女子と二人で下校しているところを時々見かけるほど。まだ高校一年生の5月で、彼について知っていることといえばそれぐらいだった。
これまでの男女別の「名前順」だった席が一気にガラリと変わり、教室の中に新鮮な空気が流れ始める。あまり喋ったことのなかった人と仲良くなるチャンスだ——たぶんこの場にいる全員がそう思っていた。
そして私はこの時、まさかこの席替えが高校三年間の自分の運命をまるごと左右することになるなんて思ってもみなかった。