「どうやら、入水したおまえを供養するために建てられたらしいな」
「そんな……」
おろおろとする鼓水の目の前で、水鏡は母子が像の前を通り過ぎる様子を映した。
「母ちゃん、これはなぁに?」
「鼓水様の慰霊碑だよ。この湖に身を投げられたんだ。美しくてお優しい方だったのに」
「可哀そう。私、これをお供えするよ」
道すがら摘んできたのだろうか、子供は手にしていた素朴な野花を像の前に添えた。
「鼓水様、喜んでくれるかな?」
「ああ、きっと天国で笑っていらっしゃるよ」
子供は破顔し、嬉しそうに母の手を握って歩いて行った。
母子の後ろ姿が見えるうちから、今度は老婆が像の前で手を合わせた。
「鼓水様、どうぞ安らかに」
それからまた別の人間が深々と頭を下げる。
そんな調子で、像の前には次から次へと人間が立ち寄ってきて、なかなか騒がしい。
悲運の運命をたどった巫女鼓水の鎮魂を願っているのだった。
当人はこうして息災で、青い顔をしているのだが。
「……申し訳ございません」
「鼓水が謝る必要はない。人間達が自己満足でやっているだけのことだ」
鼓水を入水に追いやったという負い目を、こうでもして晴らしたいだけだろう。
まったく、人間とは短絡的で愚かな生き物だ。
「よい。銅像ひとつなんてことはない。ほとりが騒々しくなるのは悩ましいが」
まぁ、それもあと数か月のことだろう。
真新しい今は盛んな信仰心も、時が経つにつれ薄れさせていくのが愚かな人間の業だ。
「そんな……」
おろおろとする鼓水の目の前で、水鏡は母子が像の前を通り過ぎる様子を映した。
「母ちゃん、これはなぁに?」
「鼓水様の慰霊碑だよ。この湖に身を投げられたんだ。美しくてお優しい方だったのに」
「可哀そう。私、これをお供えするよ」
道すがら摘んできたのだろうか、子供は手にしていた素朴な野花を像の前に添えた。
「鼓水様、喜んでくれるかな?」
「ああ、きっと天国で笑っていらっしゃるよ」
子供は破顔し、嬉しそうに母の手を握って歩いて行った。
母子の後ろ姿が見えるうちから、今度は老婆が像の前で手を合わせた。
「鼓水様、どうぞ安らかに」
それからまた別の人間が深々と頭を下げる。
そんな調子で、像の前には次から次へと人間が立ち寄ってきて、なかなか騒がしい。
悲運の運命をたどった巫女鼓水の鎮魂を願っているのだった。
当人はこうして息災で、青い顔をしているのだが。
「……申し訳ございません」
「鼓水が謝る必要はない。人間達が自己満足でやっているだけのことだ」
鼓水を入水に追いやったという負い目を、こうでもして晴らしたいだけだろう。
まったく、人間とは短絡的で愚かな生き物だ。
「よい。銅像ひとつなんてことはない。ほとりが騒々しくなるのは悩ましいが」
まぁ、それもあと数か月のことだろう。
真新しい今は盛んな信仰心も、時が経つにつれ薄れさせていくのが愚かな人間の業だ。