「透冴様の元より戻ってから私は巫女と崇められました。何もかもが一変しましたけれども、この焼き印のおかげで驕らずにいることができました。どんなに崇敬されようが、私は奴隷。ただの鼓水なのだと。今となっては、この焼き印も私の一部です」

鼓水を抱き締める腕に、力が入った。
切なく、甘く、苦しい――このままずっと離さず腕の中でしかと守っていきたい衝動に駆られる。
この気持ちは、なんなのだろう。
恐らくこれも、鼓水を愛するが故の心の揺れのひとつ。

奴隷として扱われ、我が身を犠牲にしようとした鼓水。
そこまでないがしろにした鼓水を、村の人間は手のひらを返したように崇敬し、巫女と担ぎ上げた。
つくづく人間とは、愚かで勝手な生き物だ。
私は、人間が嫌いだ。

だが、鼓水は特別だ。

何よりも大切な、私の愛しい妻だ。

「そう考えると、こんなちっぽけな私のことも、天の神様はちゃんと見ていてくださったのだなぁ、と思いますね」

天界の連中が?

しみじみと言う鼓水に、私は思わず眉根を寄せた。

「鼓水。それは考えすぎだ。あいつらはそんな慈悲深くはない」
「え? ……まぁ、そうでした! 天の神様は透冴様のご同輩でしたね」

いつか天の神様をご接待することになったらどうしましょう……! と慌て始める鼓水を見つめていると、自然と口元に笑みが寄る。

もし本当に、天界のやつらが鼓水を遣わせたというのなら。
お節介だと思いながらも、私は心の底から感謝するしかないだろう。