「おまえはここに始めて来た時、『自分から進んで生贄になった』と言ったな。どうして縁もゆかりもない村人のために自らを犠牲になどと?」
「塵芥にも等しい奴隷の身。最期くらいは人様のために働いて、生きた証を残したかったんです。唯一の肉親である弟も救えると思えば、なおさら……」

鼓水は戸惑うように微かに沈黙した後、小さな声で答えた――が不思議と穏やかな微笑を浮かべた。

「……なのに、こうして透冴様と出会えて、こんなに幸せになれたなんて……。人の運命とは、不思議なものですね」
「鼓水……」

気恥ずかしげに俯く鼓水を、私は思わず抱き寄せていた。
か細く、小さな身体。
この儚げな身に辛い過去を背負っていたのだと思うと、胸を掻きむしりたくなるような切ない想いに襲われる。

「辛い思いをしてきたのだな」

鼓水は無言だった。
その重々しい沈黙が、悲しい過去について多くを語っている気がした。

「……ですが、今となってはこの痕に感謝すら覚えるのですよ」

思わぬ言葉に訝しむ私に、鼓水は弾んだ声で続けた。