私は二人の顔を交互に見て言った。

「この湖底の屋敷に奴隷などいない。鼓水は私と生涯共に生きる妻であり、おまえは龍神の義弟なのだからな」

息を飲む二人に私は微笑を浮かべた。

「おまえ達は自分で新たな道を切り開いた。過去の遺物はおまえ達が前に進むのに十分役立ったろうが、もう不要だろう。これからは今の自分を誇りにして生きていくんだ」

鼓水は目に涙を溜め笑い、草輔もまたあどけなさが滲む笑顔を浮かべた。

「透冴様。ありがとうございます」
「年寄くさい偏屈神様かと思ったけど、粋なことをしてくれるじゃねぇか」

相変わらずの不遜な発言に、ついに鼓水が目を剥いた。

「おまえはまた……! 透冴様に謝らないと許さないわよ!」
「おっと、姉ちゃんもすっかりお妻様だなぁ」
「こら逃げるんじゃないのっ。待ちなさいっ」

追いかけっこを始めた仲睦まじい姉弟の姿を見守る私に、燿興がしみじみとした口調でちゃちゃをいれてきた。

「兄者も人間に対してずいぶんと寛大になられたなぁ」
「そんなわけがなかろう」
「ああそうだな、鼓水にだけ甘いのか」
「否定はしない」

私は笑った。

目を吊り上げて草輔を追いかけている鼓水。
あのような表情の鼓水を見られるのも、また一興。

鼓水を過ごすこの時が、何よりも幸せで大切だ。