「でも、その焼き印のせいでいろいろ苦労したんじゃないか?」

いわれのない差別や不利な状況に置かれたことは多々あったろう。
燿興の言葉に草輔は静かに頷いて、筋肉質の腕に浮かぶ焼き印を一瞥した。

「まぁな。むかつく目にはずいぶん遭ったよ。こんな痕消してやるって燃えた薪を押し当てようとしたこともあった。……けど、奴隷だった事実はどう足掻いたって消せねぇ。なら見せてやるよ、って思ったんだ。奴隷がのし上がっていく様をな」

そうどこか誇らしげに言う姿を前にして、私の脳裏に思い起こされる言葉があった。

『この焼き印のおかげで驕らずにいることができました。どんなに崇敬されようが、私は奴隷。ただの鼓水なのだと』

まったく、姉が姉なら弟も弟だ。

私は霊力を高めた。
そして、拭うように右手を空で動かした。

「あ……」

すると、鼓水の腕から焼き印が綺麗さっぱり消えた。

「透冴様……?」
「すげぇ、伊達に神様じゃないな!」

感嘆する草輔にも促した。

「おまえの腕も見てみろ」
「え? あ……っ、俺も!?」

草輔の腕からも焼き印を綺麗に消しておいた。

「もう今のおまえ達には必要ないと思ってな」