数日後、今日は大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)葛城円(かつらぎのつぶら)の元に来る話しになっていた。

今の大和王権において、大連(おおむらじ)物部伊莒弗(もののべのいこふつ)に代わり大伴室屋(おおとものむろや)と言う人物が担い、大臣(おおおみ)韓媛(からひめ)の父親の葛城円が引き続き担っている。

それで葛城円とのやり取りは、ひとまず今まで通り、大泊瀬皇子が葛城に出向いて行う事になっていた。

「今日は余り大泊瀬皇子に会いたい気分じゃない……気分転換も兼ねて、家の外に出て散歩でもしてみようかしら」

韓媛は、先日の大泊瀬皇子の妃選びの件をかなり気にしていた。先日の使用人達の話だと、父親の円も相手が誰かまでは確認出来なかったようだ。

(お父様にも、この話しはその後中々聞けないでいる。本人に聞くのが一番早いのだけれど、それも何となく気が重いわ)

「とりあえず、1人でいても色々考えてしまうから、散歩に行って時間をつぶしましょう」

韓媛はそう思い立つと、部屋を出て外に向かう事にした。
だが今回は使用人にはいわないで行くつもりだ。

今日は大泊瀬皇子が来る事になっているので、そんな中外に行くとなると、変に思われても困るからだ。


そして彼女が部屋を出て、家の外に向かっている時だった。いきなり自分の名前を誰かに呼ばれた。

「おい、韓媛。お前どこに行くつもりだ」

韓媛は思わずビクッとした。そして恐る恐る後ろを振り返ると、そこには大泊瀬皇子本人が立っていた。

「あら、大泊瀬皇子来られてたのですね。丁度気分転換に、少し外に出てみようと思っていたの」

韓媛はとりあえず、彼に普段通りに挨拶をした。

大泊瀬皇子の方も、特に不思議がる感じでもなく、彼女の側に近付いてきた。

「あぁ、悪いな。今日もここに来ていて、円とは今話しが済んだところだ。これからお前の元にも寄ろうとしたが、丁度目の前にいたのでな」

そんな彼の話しを聞いて、彼女は中々自分の思うようには行かないなと思った。

「本当にそれは済みませんでした。大王も変わられた事ですし、皇子も色々と大変なのではないですか?」

とりあえず彼女は、今の大和の現状を聞いてみる事にした。これはこれで丁度気になっていた所である。

「あぁ、穴穂(あなほ)の兄上も最近は少し落ち着いて来た感じだ。そのため、今は政り事以外にも目を向けるようになってきている」

(政り事以外……それってもしかして大泊瀬皇子の件も含まれてるのかしら)

韓媛は、もうここまで来たら観念して、彼に直接聞いてみようと思った。
これは恐らく、いずれ自分も知る事になる話しなのだから。