韓媛(からひめ)は、とりあえず本来の目的に話しを戻す事にした。その為にわざわざ大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)と父を説得して、ここまでやって来たのだから。

軽大娘皇女(かるのおおいらつめ)は、今後もここ大和におられるのですか?その……皇女もまだお若いので、どう考えられてるのかなと」

それを聞いた軽大娘皇女は、思わず目を丸くした。自分達の関係がここまで大きくなってしまったのだ。やはり今後の事も気になるのであろう。

「そうね。兄上との事は、今でも全然諦めきれてない。今でも彼の事が本当に大好きだから」

今でも目をつぶると、彼の優しい顔が浮かんで来る。

そんな彼女の言葉を聞いて、韓媛もとても切なくなってくる。昨日見た光景でも、2人が互いにどれほど想い合っているか、とても伝わって来た。

「軽大娘皇女は、本当に自身のお兄様を想われてるのですね」

(でも、これからどういう展開であの光景のように進むのかしら?この災いをなくすには、彼女が皇子に会いに行くのを止めさせるべきなのかも、正直分からないわ)

韓媛は少し困ってしまった。大和に来て彼女に会えさえすれば、何か解決策が見つかるのではと考えていた。
であれば、もう一度あの剣に祈ってみるべきなのだろうか。

韓媛が1人であれこれ考えていると、軽大娘皇女が続けて言った。

「私は、自分の人生は自分のものだと思っているわ。だから悔いのない生き方をしたい」

「悔いのない生き方ですか……」

韓媛は、軽大娘皇女が何か強い意思を持って、いっているような気がした。

それからしばらくして、大泊瀬皇子が戻ってきた。そして韓媛は皇子につれられて軽大娘皇女の部屋を後にする事にした。