大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)も本気で好きな女性が現れたら、きっと変わるのでしょうね」

韓媛(からひめ)は少し大泊瀬皇子をからかうようにしていった。

だが大泊瀬皇子は、そんな彼女の発言を聞いて、とても驚いたような表情をした。
そしてひどく言葉に詰まっているようにも見える。

(あら、意外な反応ねぇ?)

「大泊瀬皇子どうかされたの」

韓媛は不思議そうにして彼にいった。
最近の彼はどういう訳か、時々彼女にこんな奇妙な表情を見せてくる。

すると大泊瀬皇子は肩を落とし、少し呆れるような素振りでいった。

「お前は、何も分かってない……」

韓媛は皇子にそういわれ、彼が発する言葉の意味を全く理解出来ないでいた。

(私が何も分かってない? 一体どういうことかしら)

そもそも韓媛もまだまともに男性を好きになった事はない。もしかすると、何か問題のある発言でもしてしまったのだろうか。

すると皇子は、急に彼女に質問をしてきた。

「それを言うなら、お前はどうなんだ。好きな男でも出来たのか?」

韓媛は、皇子から意外な質問が出てとても驚く。まさか彼からこんな事を聞かれるとは、夢にも思っていなかった。

(まさか、大泊瀬皇子からこんな質問が来るなんて)

余りに意外な質問だったので、彼女も少し動揺しながら答えた。

「えっと、それは特にはないです。それにその辺は、元々お父様にある程度任せようと思ってましたから……」

それを聞いた大泊瀬皇子は、今度は少し落胆したような感じになった。

(駄目だ。これじゃ、全然らちがあかない)

すると彼は、急に何かの意を決したかのようにして、韓媛を真っ直ぐ見つめてきた。

(うん、一体何?)

「韓媛、実は俺……」

大泊瀬皇子がその先を言おうとした丁度その時、遠くから使用人の者の声がした。

「大泊瀬皇子ーー! お持たせして申し訳ありません!! 今丁度、(つぶら)様がご自宅に戻られました。直ぐにお会い出来るそうです」

それを聞いた大泊瀬皇子は、その場で思いっきり脱力感を露にした。

(何で、よりによってこんな時に……)

「あら、やっとお父様が戻られたのね。大泊瀬皇子が来られてからだいぶ時間が立っていたから、心配していたの……あ、大泊瀬皇子ごめんなさい! お話の途中で」

韓媛はどうも、今は彼より父親の方が気になっていたようだ。

「いや、良い。別に急ぎの話しではないから、また今度にする」

「あら、そうですか。では大泊瀬皇子もお忙しいでしょうから、私も自分の部屋に戻る事にしますね」

こうして、大泊瀬皇子はその後葛城円(かつらぎのつぶら)の元に行き、韓媛は自分の部屋に戻る事にした。