市辺皇子(いちのへのおうじ)穴穂皇子(あなほのおうじ)との会話が終わると、今度は彼の隣にいる大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)に声をかけた。

「大泊瀬も、久しぶりだね。最近は君も大王を手伝っていると聞く。あれだけ問題ばかり起こしていた子供が、こうも変わるとは……」

市辺皇子は少し愉快そうにして彼に言った。彼とも幼少の頃までとはいえ、一緒に暮らしている。

だが大泊瀬皇子の場合、大王とその家族が遠飛鳥宮(とおつあすかのみや)に移って以降から、問題児としての行動が徐々に出てくるようになった。

(彼の場合、男兄弟の中では一番末の皇子だ。そのために、忍坂姫(おしさかのひめ)も彼には少し甘やかし過ぎたのだろうか)

大泊瀬皇子は、市辺皇子にそういわれて少し不機嫌そうな表情を見せた。

「ふん、俺もいつまでも子供ではない。最近は父上も体調を崩しやすく、大和も色々と問題が続いている」

大泊瀬皇子はそういって、市辺皇子に対してすげない態度をとった。

穴穂皇子は、そんな弟の発言と態度を、横で見ていて思った。

(大泊瀬は、昔から市辺皇子とは反りが合わない。ただこいつの場合、少し傲慢さがあって、それが原因で敵を作りやすい所がある。だが最近は、それも少しはましになったと思っていたが……)

雄朝津間大王(おあさづまのおおきみ)は、そんな彼らの会話を聞いて、急に吹き出して笑った。

「大泊瀬、お前も随分というようになったじゃないか!これは今後が楽しみだ。市辺も悪いなこんな息子で」

雄朝津間大王はとても愉快そうにしていった。彼からしてもこの皇子の成長は頼もしく思える。あとはこの少し傲慢な所をどう正していくかが課題ではあるが。

「いえいえ、叔父上。大泊瀬はこれくらい威勢がある方が良いですよ」

市辺皇子も大王に同意して答えた。

(だが、大泊瀬のこの性格は正直少し気がかりだ……)

市辺皇子はそんな大泊瀬皇子に対して、何ともいえない不安を覚えた。

彼は良くも悪くも、変に突き進む傾向がある。元々頭の回転が早く、洞察力と行動力がとても優れている。だが彼の場合、一度キレてしまうと誰にも手がつけられない。

市辺皇子は、大泊瀬皇子がそんな危うさを秘めてる青年に見えた。


それからしばらくの間、雄朝津間大王と皇子達はそれぞれの近状について意見を交わした。

雄朝津間大王も、まだ体調が回復はしていないものの、皇子達との会話をとても楽しそうに聞いていた。

(この皇子達には、是非とも互いに協力しあって、今後の大和を大いに盛り立ててもらいたい……)

それからしばらくして、3人の皇子は大王の部屋を後にする事にした。

ただ市辺皇子に関しては、その後忍坂姫にも挨拶をしてから、自身の宮に戻るとの事であった。