その結果、その者たちは安宿媛の家を訪れた際、彼女の部屋の床下に潜り込み、呪詛の施された形代を忍ばせていたことが分かった。
詳細は何も告げられぬまま、彼らは言われるがままに、その行為を数度にわたって繰り返していたらしい。
そうして事を終えると、彼らは長屋王邸へ出向き、そこで褒美を受け取っていた。だが、それが誰の命によるものだったのかは、彼ら自身も聞かされていなかった。
そこまでの確認が取れると、不比等は従者を従えて、まず長屋王の邸へと向かう。
突然の訪問であったにもかかわらず、長屋王は特に驚いた様子も見せず、彼らを邸内へと招き入れた。
「なるほど……安宿媛が呪詛に遭われたとは。それは、なんとも恐ろしいことですね」
「それで、我が家に出入りした者たちを調べているうちに、長屋王邸の使いの者が、度々こちらへ訪れていることが分かりました。その件について、直接お話を伺いに参った次第です」
「つまり、私どもに疑いを向けておられる、ということですね」
「正直なところ、私とてあなたを疑いたくはないのです。ただ、安宿媛の存在が、あなたにとって都合の悪いものである可能性は、否定できないかと」
「ええ。私は首皇子と安宿媛の婚姻には反対しております。皇族と貴族の婚姻は、何かと面倒なことが起こりやすいので」
「よって、このようなことを、あなたが家臣にさせたのではありませんか」
「確かにこの状況では、私が疑われても仕方のないことです。ただ、私は何も存じておりません」
「……それでも、なお、知らぬとおっしゃるのですか」
「それなら、私の邸内の者どもを洗いざらい吐かせてみれば、分かることではありませんか」
「それでよろしければ、そのように致しましょう」
「はい。それで構いません」
不比等はそう言うと、長屋王邸に仕えている者たちを中心に、ひとりひとりから詳しく事情を聞いてまわることにした。そしてついに、長屋王の数名の家臣の名が、浮かび上がってきた。
数日後、不比等邸の庭には、引き出された者たちが並ばされる。
その場には、首皇子と不比等、そして長屋王の姿もあった。
厳しい寒さのなか、彼らは薄い服しか着せられず、逃げ場もなく庭に座らされていた。すでに鞭打ちの刑を受けていたのか、彼らの顔や体には、見るも痛ましい傷が残っていた。
彼らは不比等たちを前に、必死で訴えた。自分たちが進んでやったわけではなく、あくまで仕方なく従ったのだと。
「ち、違います! 私たちは、長屋王のご指示で、そうしただけです」
その言葉を、不比等の隣で聞いていた長屋王は、彼らの前へと進み出た。そして、蔑んだ視線を向けたまま、ひどく冷たい声で問いかける。
「私が、お前たちに――はっきりと呪詛を施せと、言ったか?」
それを聞いた者たちは、一瞬目を見開いた。だが次の瞬間、揃って顔を青ざめさせて、震える声で告げた。
「い、いえ……王は、そのようなことは一言もおっしゃっておりません」
その瞬間、彼らはすべてを悟った。最初から長屋王は、いざという時には自分たちを切り捨てるつもりでいたのだと。
その光景を、首皇子もまた、すぐそばで見ていた。まだ十五歳でありながら、その表情は驚くほど冷静で、ただ黙って事の成り行きを見つめていた。
「お祖父さま。これで、犯人は明らかになったようですね。あとは、この者たちの始末をお願いします」
まだ十五歳の青年の口から、そのような言葉が発せられたことに、その場にいた者たちは、言いようのない恐ろしさを覚えた。
「よし。こいつらは生かしておくことはできない。よって、全員処刑にする」
その言葉を聞いた瞬間、犯人の男たちは恐怖のあまり、がくがくと震え出した。やがて大粒の涙を浮かべ、声を詰まらせながら、必死に命乞いを始める。
だが、そんな彼らを助ける者は誰もおらず、処刑はその日のうちに執り行われることとなった。
一方、首皇子は犯人の処刑が決まると「お祖父さま。では、俺は東院へ戻ります」とだけ告げ、ひとりでその場を後にする。あれほど怒りを露わにしていた彼だが、今はもう、犯人たちに対する関心を失ったかのようで、その背中からは、彼の心の内をうかがい知ることはできなかった。
不比等邸の庭には、やがて静寂だけが残された。冬の風が吹き込み、その場の空気をいっそう、冷たくしている。
詳細は何も告げられぬまま、彼らは言われるがままに、その行為を数度にわたって繰り返していたらしい。
そうして事を終えると、彼らは長屋王邸へ出向き、そこで褒美を受け取っていた。だが、それが誰の命によるものだったのかは、彼ら自身も聞かされていなかった。
そこまでの確認が取れると、不比等は従者を従えて、まず長屋王の邸へと向かう。
突然の訪問であったにもかかわらず、長屋王は特に驚いた様子も見せず、彼らを邸内へと招き入れた。
「なるほど……安宿媛が呪詛に遭われたとは。それは、なんとも恐ろしいことですね」
「それで、我が家に出入りした者たちを調べているうちに、長屋王邸の使いの者が、度々こちらへ訪れていることが分かりました。その件について、直接お話を伺いに参った次第です」
「つまり、私どもに疑いを向けておられる、ということですね」
「正直なところ、私とてあなたを疑いたくはないのです。ただ、安宿媛の存在が、あなたにとって都合の悪いものである可能性は、否定できないかと」
「ええ。私は首皇子と安宿媛の婚姻には反対しております。皇族と貴族の婚姻は、何かと面倒なことが起こりやすいので」
「よって、このようなことを、あなたが家臣にさせたのではありませんか」
「確かにこの状況では、私が疑われても仕方のないことです。ただ、私は何も存じておりません」
「……それでも、なお、知らぬとおっしゃるのですか」
「それなら、私の邸内の者どもを洗いざらい吐かせてみれば、分かることではありませんか」
「それでよろしければ、そのように致しましょう」
「はい。それで構いません」
不比等はそう言うと、長屋王邸に仕えている者たちを中心に、ひとりひとりから詳しく事情を聞いてまわることにした。そしてついに、長屋王の数名の家臣の名が、浮かび上がってきた。
数日後、不比等邸の庭には、引き出された者たちが並ばされる。
その場には、首皇子と不比等、そして長屋王の姿もあった。
厳しい寒さのなか、彼らは薄い服しか着せられず、逃げ場もなく庭に座らされていた。すでに鞭打ちの刑を受けていたのか、彼らの顔や体には、見るも痛ましい傷が残っていた。
彼らは不比等たちを前に、必死で訴えた。自分たちが進んでやったわけではなく、あくまで仕方なく従ったのだと。
「ち、違います! 私たちは、長屋王のご指示で、そうしただけです」
その言葉を、不比等の隣で聞いていた長屋王は、彼らの前へと進み出た。そして、蔑んだ視線を向けたまま、ひどく冷たい声で問いかける。
「私が、お前たちに――はっきりと呪詛を施せと、言ったか?」
それを聞いた者たちは、一瞬目を見開いた。だが次の瞬間、揃って顔を青ざめさせて、震える声で告げた。
「い、いえ……王は、そのようなことは一言もおっしゃっておりません」
その瞬間、彼らはすべてを悟った。最初から長屋王は、いざという時には自分たちを切り捨てるつもりでいたのだと。
その光景を、首皇子もまた、すぐそばで見ていた。まだ十五歳でありながら、その表情は驚くほど冷静で、ただ黙って事の成り行きを見つめていた。
「お祖父さま。これで、犯人は明らかになったようですね。あとは、この者たちの始末をお願いします」
まだ十五歳の青年の口から、そのような言葉が発せられたことに、その場にいた者たちは、言いようのない恐ろしさを覚えた。
「よし。こいつらは生かしておくことはできない。よって、全員処刑にする」
その言葉を聞いた瞬間、犯人の男たちは恐怖のあまり、がくがくと震え出した。やがて大粒の涙を浮かべ、声を詰まらせながら、必死に命乞いを始める。
だが、そんな彼らを助ける者は誰もおらず、処刑はその日のうちに執り行われることとなった。
一方、首皇子は犯人の処刑が決まると「お祖父さま。では、俺は東院へ戻ります」とだけ告げ、ひとりでその場を後にする。あれほど怒りを露わにしていた彼だが、今はもう、犯人たちに対する関心を失ったかのようで、その背中からは、彼の心の内をうかがい知ることはできなかった。
不比等邸の庭には、やがて静寂だけが残された。冬の風が吹き込み、その場の空気をいっそう、冷たくしている。



