嵯多彦(さたひこ)はそう彼女達に言った。

(何て事なの。大王への復讐の為に、佐由良(さゆら)様を拐うですって……)

忍坂姫(おしさかのひめ)は思わず佐由良の前に立った。この人は何が何でも守らないといけない。

そしてそんな彼女達の前に、従者の男2人が立って剣を抜いた。だが彼ら2人ではこの男達には到底歯が立たないだろう。

その事を悟った佐由良はその男達に言った。

「分かったわ。あなた達の目的は私なんでしょう。ではあなた達に従います。その代わり他の人達には危害を加えないで」

そう言って佐由良は男達の前に出ようとした。

しかしそれを慌てて忍坂姫が止めた。

「佐由良様、やめてください!そんな事をしたら向こうの思うつぼです!!」

「で、でもそうしないと。あなた達にまで危害が」

佐由良はそう言って必死で忍坂姫の手を払いのけようとした。しかし忍坂姫は意地でも彼女の手を離そうとしない。

(一体どうしたら良いの……)

忍坂姫がそう思った丁度その時だった。



「おい、お前達。何をしているんだ」

ふと1人の青年の声が聞こえてきた。

忍坂姫達が思わずその青年を見た。するとそれは何と雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)だった。

(お、雄朝津間皇子がどうしてここに?)

「うん?何だきさまは!?」

嵯多彦は思わず、彼の方を見て言った。

「皇子どうして、ここが分かったの?」

忍坂姫が思わず彼に聞いた。

「宮に君が持って来ていた不思議な鏡のお陰だよ」

それを聞いて、それが何を意味しているのかを知ってるのは忍坂姫のみである。まさか彼もその鏡から不思議な光景を見たのだろうか。

忍坂姫がそんな事を考え込んでいると、彼は嵯多彦に向かって言った。

「それでお前、大王に復讐するとか言っていたけど、俺の事は知らないのか?」

雄朝津間皇子は嵯多彦を嘲笑うかのようにして言った。

「お、雄朝津間皇子、男達は5人もいるわ。皇子1人で大丈夫なの?」

忍坂姫は動揺の余り、思わず彼にそう言ってしまった。この人数を彼1人で倒すのは流石に難しいのではと。

「うん?雄朝津間皇子……そ、そうか。お前が大和の第4皇子か!!」

(し、しまった。磐之媛(いわのひめ)の産んだ大雀大王(おおさざきのおおきみ)の息子はもう1人いたんだった。6年前はまだ全然子供だったからすっかり忘れていた...)

嵯多彦はその時思った。今の時期に倭国(わこく)に来ていて良かったと。これが数年後だったら、今の大王を倒してもまだこの弟皇子が残っている為、それだけでは大和はぐらつかない。
であれば、今ここで一緒に倒してしまえば良い。

「そう言う事。じゃあお前達は、俺1人で何とかするしかないか」

そう言って、雄朝津間皇子は腰から剣を抜いた。すると彼の目つきが完全に変わってしまった。

「仕方ない。ではまずはお前から倒すとするか」

嵯多彦がそう言うと、皇子の前に男が3人でて来て、そして彼らも剣を抜いた。

それを見た忍坂姫達は少し離れた方が良いと考え、少し後ろに下がる事にした。
そして、嵯多彦達も同様に後ろに下がったみたいだ。

そして男達は雄朝津間皇子をめがけて飛び掛かっていった。