翌日、忍坂姫(おしさかのひめ)早速餌袋(えぶくろ)作りに取り掛かる事にした。

伊代乃(いよの)は、まさか皇女である忍坂姫がそんな物を作るとは、最初とても驚いた。
だが雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)への贈り物と言う事を聞いて、それならばと材料となる細い竹を持ってきてくれた。

幸い竹は宮にもあったらしく、宮の者に事情を説明して少し分けてもらえたようだ。

そして彼女は自分の部屋にこもって、黙々と作業を始めた。

「頑張ったら今日中には出来そうね。折角だし、市辺皇子(いちのへのおうじ)の分も作って上げよう」

こうして、忍坂姫は順調に餌袋を作っていった。





そんな中、雄朝津間皇子が宮を歩いていると、市辺皇子がブラブラしている所を見つけた。どうも彼は少し元気が無さそうだった。

(うん?あいつ1人でどうしたんだ)

そう思った彼は、市辺皇子の元にやって来た。そしてそんな元気の無い彼に声を掛けた。

「おい、市辺(いちのへ)、お前どうかしたのか?」

すると市辺皇子は、雄朝津間皇子を見て言った。

「今日朝から、忍坂姫が部屋でやりたい事があるって言って、ずっと部屋にとじ込もっているんだよ。何でって聞いても教えてくれないし……」

そう言って、市辺皇子はシュンとした。どうやら忍坂姫に構ってもらえないのが、寂しいようだ。

(忍坂姫が、部屋に閉じこもりきり?)

雄朝津間皇子は思わず首を傾げた。彼女は朝から部屋にとじ込もって、一体何をしているのだろう。
ただ彼女の事だから、普通の姫がやらないような事をしているような気はする。

「まぁ、別に部屋で寝込んでいる訳じゃないんだろう。本人が何かしたいと言ってやっているようだし、しばらく様子を見たら良いんじゃないか?」

市辺皇子はそれを聞いて、とりあえずコクコクと頷いた。

「仕方ないな。じゃあ今日は俺がお前の遊び相手になってやるから、それでお前も機嫌を直せ」

市辺皇子はそれを聞いて、急にはしゃぎ出した。雄朝津間皇子に遊んでもらえるのはどうも久しぶりのようだ。

それから彼は、市辺皇子とおっ駆けっこをしたり、肩車したりとして、色々と遊んでやっていた。

すると、気が付けば夕方に差し掛かっていた。流石に遊び過ぎたと思った彼は、市辺皇子を連れて部屋の中に戻ろうかと思った。

そんな時だった。
彼の目線の先に忍坂姫が立っていた。そして彼女は皇子2人を見つけて、自分達の元にやって来た。

雄朝津間皇子がそんな忍坂姫を見ると、彼女は腕に布で何か包んだ物を大事そうに持っていた。

(一体何を持って来たんだ?)

彼は彼女が持っている物が何なのか少し不思議に思った。