こうしてこの日の、桜見物は終わりとなった。瑞歯別大王達(みずはわけのおおきみ)はそのまま宮に戻るとの事だった。

それを聞いた忍坂姫(おしさかのひめ)は、やはり雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)との婚姻の件で、大王と話しをしたいと思った。
その為、大王に少し時間を作って欲しいとお願いした。

雄朝津間皇子は何で自分抜きなんだと、少し怒っていたが、そこを何とかお願いして大王と2人にさせてもらった。



「忍坂姫。で、俺に話しとは何だろうか」

瑞歯別大王は彼女にそう聞いてきた。

(それにしても、大王は本当に素敵な方ね。彼の前だと変に緊張するから、出来れば余り2人きりにはなりたくなかったけど、ここは仕方ないわ)

「はい、まずは今回の私の婚姻の件での了承と、雄朝津間皇子の宮での生活を勧めて下さり有り難うございます。
父も、こんなにあっさりと大王が了承されたので、内心ちょっと驚いてました」

忍坂姫自身も正直、これには父親と同じ意見だった。しかもこの件は、元々雄朝津間皇子の了承が無い状態だった。

「でも実際に弟に会ったら、違っていただろう?」

瑞歯別大王もやはりその辺は予想していたようである。

「はい、皇子は渋々了承させられたと言ってました。私が思うに、あっさり皇子が断るのを大王は予測して、それで1ヶ月と言う猶予期間を作る事にしたのかなと思いました」

それを聞いた瑞歯別大王は、やはりこの娘はちゃんと分かっているなと思った。

「あぁ、君の言う通りだ。あいつは最初に断るとはっきりと言っていたからな。
弟も年齢的にそろそろ妃を娶って貰いたいと思っていた。
だが中々その気配がなくて、それで少し行動に起こしてみようと思ったんだ」

確かに皇子の今の状態を考えると、本人任せにしても中々話しがまとまらないだろう。であれば今回のような事をしないと何も変わらない。

「今の雄朝津間皇子の状態を考えると、大王がそうされる気持ちも良く分かります」

忍坂姫はふと今の自分の状況を考えてみた。確かに最近は彼の様子が少し変わってきている感も無くはないが、それでも自分を妃にしたいと思っているとは中々思えない。

「で、現状的に今はどんな状態なんだ?」

瑞歯別大王は彼女に質問した。

「はい、雄朝津間皇子にその意思は恐らくまだ無いと思っています。まぁ、皇子も多少は変わったかなとは思ってますが」

「なる程な。だが今日俺が見た限りでは、割と仲良くしているふうに見えたし、見込みが無くもないとは思うが。
ちなみに君自身はあいつの事をどう思っているんだ。君にだって選ぶ権利はあるんだ」

(私が雄朝津間皇子をどう思ってるか……)

「そ、そうですね。別に嫌ではないのですが、何分あんな性格の皇子なのでやはり不安です。
大王と違って1人の女性を大事にする感じでもありませんし。まぁ、これは皇族の皇子なので仕方ありませんが」

こうやってはっきりと言葉にすると、やはり不安が大きいのだなと思った。
それに彼が自分の事を好きになってくれるのかも分からない。