舞が終わると、その場に物凄い拍手が湧いた。誰もが彼女の舞に魅了された。

そして舞が終わるなり、市辺皇子(いちのへのおうじ)忍坂姫(おしさかのひめ)に飛びついた。

「忍坂姫、僕こんな舞初めて見たよ!!」

市辺皇子はかなり興奮気味にして言った。
そんな市辺皇子を見て、彼女もとても嬉しくなった。

「忍坂姫」

彼女は瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)に呼ばれて、大王に振り返った。

「この度の姫の舞は本当に素晴らしかった。恐らくこの場にいた全ての者が、姫の舞に魅了された事だろう。俺もこんな舞は初めて見たな」

忍坂姫は瑞歯別大王にそう言われて、少し恥ずかしそうにして言った。

「そんな大王、滅相もございません。でも大王や他の皆さんに喜んで頂けたのであれば、本当に良かったです」

忍坂姫はそう大王に言うと、その場でお辞儀した。
するとまた沢山の拍手が響いた。

(とりあえず、上手くいって本当に良かったわ)

そして彼女は市辺皇子と一緒に元の席に戻って行く。

それから隣にいる雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)をふと見た。彼も彼女の舞を見て相当驚いたようだ。

「雄朝津間皇子、どうかされましたか?」

忍坂姫は彼が何も話さないので、ふと彼の顔を覗き込んだ。
彼は少し頬を赤くしていた。


「さっきの舞、まるで君が女神のように見えたよ」

忍坂姫は皇子から、思いもよらない事を言われとても驚く。
彼の目に自分が女神に見えたなんて、なんて嬉しい褒め言葉だろう。

「まぁ、雄朝津間皇子にそんなふうに褒められるなんて意外でした」

忍坂姫はそう言って少しクスッと笑った。

すると皇子は急に彼女の手を強く握ってきた。

「だが手を離すと、思わずそのままどこか遠くへ行ってしまう、そんな気持ちにさせられたよ」

まさかそれで、自分の手を握っているのだろうか。どうやら雄朝津間皇子は彼女の手を全く離す気は無さそうだ。

(流石にずっとこのままなのも困るんだけど……)

だがどうする事も出来ないので、暫く皇子の好きにさせる事にした。