そして忍坂姫(おしさかのひめ)一行はようやく会場となる場所までやって来る。
そこは少し小高い場所に設置されていた。

そして使用人達が既に先にやって来ていて、食事やお酒等が置かれていた。

今日は天気も良く、桜も満開である。

「わぁ、本当に綺麗な桜ね。今日来て本当に良かったわ」

忍坂姫は余りの桜の綺麗さにとても感動する。また少し小高い所のためか、彼女がふと目を向けると、割りと遠くの方まで見渡す事が出来た。

「まさか、君がそこまで喜ぶとは思っていなかったよ」

忍坂姫の隣に座っている雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)が、彼女にそう言った。
ちなみに忍坂姫の反対側には市辺皇子(いちのへのおうじ)が座っている。

席順に関して言えば。
瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)の右側に雄朝津間皇子がいて、そのさらに隣に忍坂姫と市辺皇子が座っている状態だ。
瑞歯別大王の左側にはまだ誰も座ってはいなかった。

(大王の反対側には誰が座るんだろう?見た感じだと、大王の后は来られてないようだし)


それから暫くして大王の横に1人の男性がやって来た。

「大王、遅くなって済みません」

その男性はそう言うなり、瑞歯別大王の隣に座った。見た目的に、大王と差ほど歳の離れていないぐらいの年齢に見える。

稚田彦(わかたひこ)、お前も忙しいのに誘って済まないな」

瑞歯別大王は彼にそうに声をかけた。
そして大王は続けて、彼に忍坂姫を紹介した。

「稚田彦、こっちが稚野毛皇子(わかぬけのおうじ)の皇女の忍坂姫だ」

忍坂姫は急に自分の事が言われたので、慌てて稚田彦に挨拶をした。

「始めまして。稚野毛皇子の娘の忍坂姫と言います」

それを聞いた稚田彦は思わず「あぁ、この方が」と言った。
どうやら彼女の事は、瑞歯別大王から聞いていたようだ。

「あなたのことは大王から聞いております。私は大王の補佐に携わっている、稚田彦と申します」

そう言って彼は忍坂姫に挨拶をした。

忍坂姫はそんな彼を見て、ふと違和感を感じた。

(何だろう、この人誰かに似ているような?)

忍坂姫は稚田彦の顔をじっと見ながら首を傾げた。
そんな彼女を見て、稚田彦も少し不思議に思った。

「あのう、忍坂姫。どうかされましたか?」

「いえ、あなたの顔、誰かに似ているような気がして……」

忍坂姫は誰だったかなと色々頭の中を巡らせてみた。だが中々該当の人が浮かんでこない。
この稚田彦と言う人は、恐らく今日初めて会っているはずだ。

「忍坂姫、君はずっと息長にいたんだろう?そんな君がどうして大和の人間なんかと知り合うんだ」

雄朝津間皇子も、忍坂姫のそんな突然の発言に少し驚いていた。