(どうしよう、このままじゃ皆殺される……)

忍坂姫(おしさかのひめ)もさすがに体が固まってしまい、ブルブルと震え出した。

そんな彼女を見た衣奈津(いなつ)は、さらに強く彼女を抱きしめた。



これで本当におしまいだと思ったそんな時だった。

「お前達、こんな所で悪行をやっていたのか。やっと見つけたよ」

「だ、誰だ。お前は!」

思わず、盗賊の一人が叫んだ。

忍坂姫が恐る恐る前を見ると、そこに1人の青年が立っていた。
とても身なりの良い服装を来ていて、忍坂姫より数歳年上に見える。

「この辺りで盗賊が出ると言う話しを聞いて、それで張り込んでいたのさ」

それを聞いた2人の盗賊は、その青年に向けて剣を取り出した。
相手は1人だ、2人で掛かれば何とか倒せるだろう。

「お前みたいなガキに何が出来るって言うんだ。では先にお前から始末してやる」

そう言って2人そのはその青年に斬りかかっていった。

すると青年は素早く剣を取り出し、先にやって来た男の腹を一瞬で切った。

「き、きさまー!!」

男は余りの痛みにその場に倒れ、動けなくなった。そしてその男に止めを刺す為に、さらにもう1回剣を刺した。
すると一瞬男は声をあげたが、すぐに息を引き取った。

それを見たもう1人は、恐ろしくなり1歩後ろに下がった。

そして「こ、これは、やばい」そう言って逃げようと後ろを向いた瞬間、青年が素早くやって来て、後ろから男の背中を縦に剣で切った。

「ぎゃー!!」と言って、その男は足元をふらつかせた。

男がふらついた隙に、さらにもう一振剣を浴びせた。
するとその男もその場に倒れたのち、暫くして息を引き取った。

それは本当にあっという間の出来事だった。

そしてその青年は「ふぅーやれやれ」と言ってから、腰にあった布を取り出し、剣についた血を拭き取った。人を2人殺したと言うのに、表情は至って冷静だ。

忍坂姫はその状況を呆然と見ていた。

(この人一体何者なの?)

剣を拭いて腰に戻すと、その青年は忍坂姫達に向かって言った。

「最近、この辺りで盗賊が出ていると言う話しがあったんだ。あなた達もとんだ災難だったね。まぁ、これで盗賊はいなくなったから大丈夫だと思うけど」

忍坂姫はとりあえずお礼を言わなければと思い、まだブルブルと震えている体を必死で押し退けて前に出た。

「あのう、本当に助けて下さって有り難うございました。もう本当に駄目かと思いました」

忍坂姫はそう彼にお礼を言った。

そんな彼女を見た、青年はにっこりとして言った。

「別に気にしなくて良いよ。元々そのつもりでこの辺りにいたんでね」

そんな彼を見て、先程まで剣を使って人を殺したとは到底思えない。それほど先程の彼は本当に恐ろしかった。

「とりあえず、この男達の処理を近くの村の人に任せるつもりだ。君達も移動中なんだろう?早く行った方が良い」

そう言いながら、彼は既に死んでいる男2人を道の隅に動かし出した。

忍坂姫達が歩けるようにしたいのだろう。

「本当に何から何まで、すみません。私の名前は……」

彼女がそう言おうとすると、衣奈津が横から止めた。

「お名前を出すのは控えた方が宜しいかと」

それを聞いて忍坂姫はハッとした。