それから暫くして、一旦瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)丹比柴籬宮(たじひのしばかきのみや)に戻る事にした。

雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)も少し傷を負っているが、少しかすった程度なので、そこまで酷くはないようだ。

そして佐由良(さゆら)は誘拐されそうになったので、大王の馬で一緒に帰る事にした。
また阿佐津姫(あさつひめ)稚田彦(わかたひこ)の馬に乗っている。

こうすれば2人の危険が半減出来ると、大王が考えた。


忍坂姫は雄朝津間皇子に付き添った。とりあえず馬にはギリギリ乗れるみたいだった。

(こんな事、本当は今聞くべきではないんだろうけど)

「ねぇ、雄朝津間皇子。一つ聞きたい事があるんですけど」

忍坂姫は迷いながらも聞いて見る事にした。自分の予感がどうか当たらない事を祈って。

「うん?聞きたい事?」

皇子は一体何だろうと思い、彼女の質問に耳を傾けた。

(お願い、どうか違うと言って……)

「雄朝津間皇子は、もしかして佐由良様の事が本当は好きだったんじゃ?」

それを聞いた彼は一瞬目を丸くした。
まさか彼女からこんな質問をされるとは思っても見なかった。

だが彼自身、彼女に嘘は付きたくないと思った。

「あぁ、そうだよ。もう何年も前の事だけどね。その時に彼女に自分の妃になって欲しいと言ったんだ。
でも彼女は当時、既に今の大王の事が好きだった。だからあっさり振られたんだけどね」

それを聞いた忍坂姫は衝撃を受けた。好きなだけだったなら知らず、まして彼は妃にしたいとまで言っていたのだ。

「そ、そうなの。今日ちょっとそんな気がしたんです。でも大丈夫、少し気になっただけだから」

忍坂姫は少し笑って彼に答える。
彼女も皇子に余計な心配はかけたくはなかった。

「まぁ、俺にもそんな純粋な頃があったって所かな」

そう言うと、雄朝津間皇子はその場から立ち上がった。

「じゃあ一旦、大王の宮に戻ろうか」

それから2人は瑞歯別大王の宮へと向かった。

彼女がどうしてこの事を確認したかったかと言うと、今回の彼との婚姻の件で瑞歯別大王と再度話しをする為であった。
その為、その前にこの真実を確認したかった。

今回皇子達が視察に行く前に、大王から宮に帰ったら今回の婚姻の件で話しをしようと言われていた。


こうして、そんな事を思いながら忍坂姫は大王の宮へと向かった。