「皇子済みません。私の為に」

　佐由良は瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)に誤った。

「別に構わないさ。いきなり自分の父親と会う事になったんだ。お前が動揺するのも無理はない」

　そう言って、瑞歯別皇子は佐由良の手を握りそのまま歩き出した。

（何で、この人はこんなに優しくしてくれるの）

　佐由良は皇子の手から伝わる温かさを感じながら、彼のそんな優しさがとても嬉しく思えた。

　それから2人は、ただただ外を歩いて回った。ふと気付けば夕日が出ていた。

「何て綺麗な夕日だろう」

　佐由良は思わず夕日に見惚れた。

　すると瑞歯別皇子も「そうだな」と言った。

（何でこの人と一緒にいるとこんなに安心するんだろう）

　佐由良は一瞬、この時間がこのまま続けば良いのにと思った。それから2人はしばらく夕日を眺めていた。


「瑞歯別皇子、今日は本当に有難うございました。皇子がいてくれたお陰で、父と会う事が出来ました」

「父親と会えたのは、別に俺だけのお陰じゃない。今日来なかったとしても、いずれは再会出来てたと思う」

　彼はぶっきらぼうに言った。

「いえ、私一人じゃこんなに簡単じゃ無かったと思います。私は今まで誰からも必要とされず、助けてくれる人も余りいませんでした。でも祖父の思いを知れて、父と言う頼れる存在が出来ました。もう感謝のしようがありません」

　それを聞いた瑞歯別皇子は突如佐由良の手を離して、数歩彼女の前に出た。

（皇子？）

　そして彼は振り返って言った。

「確かに伊莒弗(いこふつ)は父親だから、頼りたくはなるだろう。だが、もし今後何か困った事があればまずは俺に相談しろ」

「皇子、済みません」

　佐由良は思わず彼に誤った。

「お前は自分の立場を今一まだ理解出来てないな。まぁ、出会って間もない頃の事を考えると、無理もないのかもしれないが」

（皇子の事は、確かに最初の頃は戸惑う事も多かった。でも、今はとても信頼してる。）

　瑞歯別皇子は、佐由良がどう返答しようかと悩んでいるのを見て言った。

「前にも言っただろう。佐由良、お前の事は俺が絶対に守ってやるって」