「そ、そんな事って……お祖父様が」

 佐由良は思わずその場で泣き出してしまった。祖父は自分の事を思って大和に行かせてくれたのかもしれない。

(私は、お祖父様に嫌われてる訳では無かった)
 
「佐由良大丈夫か?」

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)はそんな彼女の肩を優しく叩いてやった。
 すると彼女も思わず彼の胸に飛び込んで泣いた。

 それから佐由良はその場でしばらく泣き続けた。

 その後佐由良が落ち着くのを待って、3人は外に出た。外は広い平地が有り、横に小さな川が流れている。


 そこで伊莒弗(いこふつ)は佐由良に言った。

「佐由良、今は皇子の元にいるので大丈夫だと思うが、もし何か困った事や、宮に居づらくなるような事があれば、私を頼りなさい。お前は私の娘なのだから」

「本当に……」
 
 その話しを聞いた佐由良の目から、また涙が込み上げて来る。

「伊莒弗、お前は佐由良を娘と認めるんだな」

 瑞歯別皇子は横から彼に対して言った。

「認めるも何も事実そうです。今妻は既に他界し、子供達も理解はしてくれると思います。佐由良が嫌で無ければ、また別の機会に子供にも合わせてやりたい」

(そうか、私には義理の兄弟もいるんだ)

「麻日売に何もしてやれなかった分、この子には出来る限りの事をしてやりたい」

(お父様……)

 佐由良は生まれて初めて、親子の絆と言う物を感じる事が出来た。

(お母様も、向こうの世界で見てくれているかしら)



 それからしばらくして、伊莒弗は言った。

「では、私は一旦家の中に戻ります。せっかくなので少しこの辺りを歩かれて見たらどうですか。佐由良も泣き続けて大変だっただろうし」

「分かった。しばらくこの辺りを歩いて、それからまた戻る事にする」

「そうされると良いでしょう。ではまた後ほど」

 そう言って、伊莒弗は中に戻って言った。