そしてついに物部伊莒弗(もののべのいこふつ)の住んでいる場所まで辿り着いた。  

 この辺り一体は物部一族の人達が住んでいる地域だ。

「これは、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)。本日は良くぞお越し下さいました。私はここに仕えている須美乃(すみの)と申します」

 2人を出迎えた女性が、挨拶をした。  

「伊莒弗に用があって来た。彼に合わせて欲しい」

「はい、その話しは聞いております。ではご案内しますので、どうぞこちらに」

 こうして2人はその女性の案内で伊莒弗の元へと向かった。


「伊莒弗様、瑞歯別皇子とそのお連れの方が来られました」

 女は伊莒弗の部屋の前で、中にいる彼に声を掛けた。

「あぁ、中に入ってもらいなさい」  

 部屋の中から男性の声が聞こえた。  

「では、中へどうぞ」

 須美乃にそう言われたので、瑞歯別皇子と佐由良は中に入った。

 2人が中に入ると、そこには1人の男性が座っていた。大体40歳前後ぐらいだろうか。

「瑞歯別皇子ご無沙汰しております」

 伊莒弗は皇子にそう挨拶した。しかし皇子と一緒に入って来た佐由良を見て、彼は驚きの表情を見せた。

「うん?麻日売(あさひめ)

 思わず伊莒弗は言った。

「やっぱり、伊莒弗はその女性の事を知っていたか。この娘は吉備国海部の佐由良。今お前が言った麻日売の娘だ」

「何、麻日売の娘」

 佐由良は伊莒弗に対してお辞儀した。

 伊莒弗はまじまじと彼女を見た。

「しかし、見れば見るほど彼女に似ている。皇子、これは一体どう言う事でしょうか」

「佐由良、例の首飾りを」

 そう言われて、佐由良は母の形見の勾玉の首飾りを取り出した。

「それは昔、私が麻日売に上げた首飾り」

 伊莒弗は佐由良の側に来て、その首飾りを見た。

「これは亡くなった母の形見として、頂いた物です」

「何!麻日売は既に亡くなっているのか」

 伊莒弗は驚いた。

「はい、私を産んで直ぐに。なので私は母の顔を覚えていません」

「そうか...麻日売は既に亡くなったていたのか」

 伊莒弗は「そうか、そうか」と言いながら少し涙を滲ませた。

(この人にとって、お母さまはとても大切な人だったのかな)

「それで、そなた歳はいくつだ」

「はい、14です」

「なに14だと。私が麻日売にその首飾りを渡したのが15年程前だった……」