佐由良達は無事に宮に戻って来ていた。

 そして娘の誘拐事件が一段落した事で、宮の人達も皆やっと安心した日常が送れるようになった。

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)から、物部伊莒弗(もののべのいこふつ)の事はまた何か分かり次第伝えると言われた。

(あの勾玉の見せた光景は、本当に何を意味してるんだろう)

 とりあえずこの件は、瑞歯別皇子に任せるしかない。

 それから2週間が立った。特に皇子からは何の連絡も来ない。  


「それにしても、最初はあんなに自分の事を避けていた人が、まさかこんなに変わるなんて」

 佐由良も瑞歯別皇子の変わりようには本当に驚いた。むしろ彼の事をとても頼もしく思えるようにさえなった。

(元々とても有能な人とは聞いてたけど)

「何か宮の娘から好かれている理由が分かったかも」

「何が好かれてるだって」

 佐由良は慌てて後ろを振り返ると、そこには瑞歯別皇子本人が立っていた。

「皇子いらっしゃったんですね」

 佐由良は、瑞歯別皇子にお辞儀した。

「何、1人でブツブツ言ってるんだ。好かれてるがどうのって」

「いえ、何でもありません。お気になさらず」

 瑞歯別皇子はまだ気になったが、とりあえず用件を話す事にした。

「明後日に、物部伊莒弗に会いに行く事になった」

「まぁ、例の物部の方に」

「それでお前にも一緒に行ってもらいたい。あの不思議な光景に出ていた男が物部伊莒弗なら、お前の顔を見たら何か反応があるはずだ。それにお前がいた方が説明がしやすいからな」

(確かに今回の件は私も一緒の方が、何かと話しがしやすい)

「分かりました。では私も同行させて頂きます」

 こうして2人は物部伊莒弗の元へ行く事になった。