「佐由良、お前に危害が無くて本当に良かった」

 それを聞いた佐由良もボロボロ涙を流した。
 そんな彼女を、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)はより強く抱きしめて頭をなでてやった。

(こいつにもしもの事があったら俺は……)
 

 その時、瑞歯別皇子は佐由良を抱きしめながら、もうこれ以上は自分の気持ちを誤魔化せないと思った。
  
(もう気持ちを抑えられない。俺は佐由良が好きだ)
 

 それからしばらくして、捕まっていた娘達も無事に開放された。  

伊久売(いくめ)ー!」

「佐由良!」

 2人は抱き合って、お互いに喜んだ。

「私もう駄目だと思ってた。本当に有り難う佐由良」

「ここまで来れたのは瑞歯別皇子と稚田彦(わかたひこ)様のお陰よ」

「皇子、稚田彦様、本当に有難うございます!」


 こうして他の娘は自力で自分の村に戻るか、それが難しい者は瑞歯別皇子の兵が送り届けた。

 伊久売は稚田彦の馬に乗せてもらい、佐由良達と一緒に宮に戻る事にした。

「わぁー私馬なんて初めて乗ったわ」
 
 伊久売は初めて馬に乗って、とても感動していた。  

「私は吉備にいる頃に何度か乗ったことがあるわ」

 それを聞いた伊久売は「へぇ~吉備のお姫さまは凄いわね」と感心した。

「でも吉備にいた頃は、こんな風に気軽に話しが出来る人が少なかったの。私大和に来て本当に良かった」

「へぇーそうだったんですか」

 伊久売の後にいた稚田彦が言った。

「佐由良にそう言ってもらえて良かったですね。皇子」

「あぁ、そうだな」

 瑞歯別皇子はぽつりと言った。

「今日の皇子は本当に素敵でした。まさかあんなに剣が強いなんて思ってもみませんでしたので」

 佐由良は珍しく皇子を尊敬の目で見た。

「別に、そんな対した事じゃないさ」

 佐由良に褒められて、皇子は少し照れた。

「皇子の宮に仕えたお陰で、こうしていろんな人と知り合えました。私今本当に幸せです。もうこれ以上の幸せは何も望みません」