瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は余りに佐由良が無口なので、彼女の耳元に話しかけた。

「おい、佐由良大丈夫か」

(皇子はどうして平気なの)

「はい、大丈夫です。お気遣いなく」

 佐由良は思わず下を向いた。先程あんな事があったばかりなのに、全く動じてない彼に対して、何ともやるせない思いがしていた。

 そんな佐由良の心境に皇子は特に気付いているふうでもなく、彼女の耳元で小さくささやいた。

「もしかして、さっきの口付けでは満足出来なかったのか」

「そ、そんな事ありません!」

 思わず佐由良はその場で叫んだ。

「うん、佐由良どうかしましたか?」

 稚田彦(わかたひこ)は心配して彼女に訪ねた。

「いや、何でもない。気にするな」

 瑞歯別皇子は何事も無かったかのように、平然と答えた。

(私初めてだったのに...皇子はきっと経験あるんだろうな)

 そうして更に後を追っていると、前を歩いている男は森の中へと進み出した。

「まずい、これ以上は馬を降りて進もう」

 瑞歯別皇子がそう言った為、3人は馬を降りて、前の男に気づかれないように歩いて向かった。

 しばらくすると簡単に出来た集落を見つけた。遠くから見ると集落の1箇所に若い女達が、集められていた。そして皆ビクビクしていて、とても怯えている様子である。

「連中は14、5人ぐらいで、囚われた女は大体20人ぐらいのようだ」

 そこに前を歩いていた男が、荷物の中から1人若い女を引っ張り出した。

「あれは伊久売(いくめ)だわ」

 佐由良はしっかりと伊久売の姿を確認する事が出来た。

「よし、稚田彦。ここは俺が見張ってるから、佐由良を連れて宮に戻って20数名程兵を連れて来てくれ」

 するとそれを聞いた佐由良が言った。

「皇子にもしもの事があってはいけません。私もここに残ります。それにちょとでも早く宮に戻るなら、稚田彦様1 人で戻った方が早いです」

 それを聞いた瑞歯別皇子は肩を落として、言った。

「あぁー、くそ。稚田彦、済まないが1人で急いで宮に戻ってくれ」

 それを聞いた稚田彦は答えた。

「分かりました。では急いで戻ります。お二人は、くれぐれも無理はしないで下さい」