見張りの者には、家臣に連絡だけするよう伝えた。家臣達に相談すれば、絶対に反対されると皇子達は思ったからだ。

「では、2人共行きますよ」

 稚田彦(わかたひこ)がそう言うと、3人は後を追うために向かった。

 佐由良も馬には多少乗れると言っていただけあって、サッと馬に乗る事が出来た。

(お前、吉備では本当に馬にも乗っていたのか)

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)はそんな彼女を見て、改めて他の普通の姫とは違うなと思った。

 そして3人が馬で必死で追っていると、しばらくしてれらしき人物の男が米や野菜等を運んでいるのが見えた。

(きっとあの荷物の中に伊久売(いくめ)が詰め込まれてるんだわ)

「とりあえず、追いつきましたので、これからはペースを落としてあとを追います。毎回この近辺の村の娘を盗んでいるとなると、恐らく奴らのアジトもこの近くにあるはずです」

 そうして、馬に乗りながらゆっくりと後を追った。


 流石に後ろから馬でゆっくりと後を付けられているので、その男も後ろをチラチラと見ていた。

「やっぱり私達怪しまれてますね」

 稚田彦が少し緊張気味に言った。
  
 佐由良もどうしようと、後ろの瑞歯別皇子をチラッと見た。2人で乗っている為、佐由良と瑞歯別皇子の距離はかなり近い。

 瑞歯別皇子もどうしたものかと考え込んでいた。

「うーん、これは仕方ないか。佐由良俺の方を向け」
 
 そう言って瑞歯別皇子が強引に佐由良を自分の方に向かせた。

(え、なに?)

 そして皇子は、いきなり佐由良に口付けた。

「ん! んんっ... !」
 
 佐由良は余りの事に、とっさに瑞歯別皇子から離れようとした。

(皇子、ちょっとやだ!)

 だが皇子は馬の手綱を握ったまま、佐由良を強く抱き寄せ、逃げようとする佐由良の唇を追って、さらに強引に口付けをし続けた。

「んんっ... ...! っう... ... !」

(皇子、何て大胆な……)

 流石に稚田彦も呆気にとられた。

 前を歩いてる男も2人の長い口付けを見て、流石に目のやり場に困ったらしく、すぐ様前を向いた。

 その様子を確認した瑞歯別皇子は、やっと佐由良から唇を離した。

「ふぅー、何とか誤魔化せたみたいだな」

「皇子も思い切った事しますね」

「まぁ、これで大丈夫だろう。先を進めるぞ」

 佐由良は余りのショックに言葉を無くした。

(皇子の唇の感触がまだ残ってる......いくら伊久売を助けるとは言え、心が付いて行かない)