「そうか、では急いで追いかけて……って。いや待てよ。そいつらの跡をついて行けば、奴らのアジトにたどり着ける」

「なる程ー、皇子その手がありますね!」

 見張りの男はとても感心して皇子にそう言った。

「しかし、問題は誰に跡を追わせるべきか?」


 丁度その時、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)達の元に1人の青年がやって来た。

「瑞歯別皇子、こちらにいらしたんですね」

「お前は稚田彦(わかたひこ)。今戻ったのか!」

 瑞歯別皇子は直ぐ彼の側に寄った。どうやら割と気心の知れた間柄のようだ。

(この人は誰だろう)  

 佐由良は不思議そうにその青年を見た。歳は瑞歯別皇子と同じぐらいだろうか。

(こんなに瑞歯別皇子が気さくに接する男性は初めて見たわ)

 すると稚田彦は佐由良の方を見た。  

「皇子、こちらの女性は初めて見ます。新しい采女の方ですか?」

「吉備国海部の佐由良だ」

「あぁ、あなたが噂の。話には聞いておりました。私は瑞歯別皇子の補佐をしている稚田彦と申します」

「始めまして、佐由良です」

 佐由良は頭を下げた。 

「今回は大和近辺の偵察に行ってまして、先程戻って来た所なんですよ」

「こいつの父親が、先の大王の異母兄弟に当たる。こいつも一応皇族の者だが、皇子の資格は有してない。だがかなり優秀なので、俺の補佐をしてもらっている」

 瑞歯別皇子が横から説明した。

「まぁ、それは凄い方なんですね」
 
 佐由良はとても感心げに言った。

「そうだ稚田彦、宮に戻って来てすぐで申し訳ないが、お前に頼みたい事がある」

 瑞歯別皇子は、今回の若い娘の誘拐の事件の事を彼に説明した。


「なる程、では私にそいつらの後を追って欲しいと言う事ですね。それは構いませんが、ただ私1人が後を追っていたら、もしかすると相手に怪しまれてしまう可能性が」

(確かにそれは言えてるかしれない)
 
 佐由良も彼の意見に同調した。

(後を追って怪しまれずに済むには……)