瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は宮の内部を歩いていた。

「しかし犯人は一瞬で娘をさらって行くと言っていた。相手の足が相当に早いのか、もしくは馬に乗っていたのだろうか。だが女達は普段馬に乗り慣れていないし」

 そんな時だった。 彼の目の先で、采女の胡吐野(ことの)が何やらソワソワしていた。

「おい、お前どうかしたのか」

 瑞歯別皇子が胡吐野に声を掛けた。

「これは瑞歯別皇子、実は今日遠方から届く、米や野菜がまだ来てなくて」

「何、まだ来ていない?」

(何か遅れでもあったのだろうか)

「今日は佐由良が当番で、受け取り場で荷物の確認をする予定です。佐由良からもまだ何も返事を聞いてなくて」

「ふーん、まぁ受け取り場にも見張りがいるから、何かあれば連絡は入るのか」

「でも荷物が多い時は、少し離れた所に置いて、そこで荷物の確認をする事もあります」

 それを聞いた瞬間、瑞歯別皇子は嫌な予感がした。

「おい、それがあいつらの手口なんじゃ」
 
「皇子、それって例の誘拐の?」
 
「その荷物の中に娘を入れれば簡単に運ぶ事が出来る」

「ま、まさか佐由良が」

 その瞬間、瑞歯別皇子はその受け取り場に向かって走り出した。

「お、お待ち下さい。皇子ー!」

 胡吐野はその場で叫んだが、彼は気にも止めずに行ってしまった。

(くそ、佐由良無事でいてくれ)