そんな様子の佐由良を見ていた瑞歯別皇子は、思わず彼女に言った。

「つまり、そいつがお前の想い人だったって訳か」

 そう言って、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)はグイっとお酒を一気に飲み干した。どうも彼にはこの話しは面白くなさそうだ。

「え、彼はそんなんじゃないです。ただの大事な幼なじみのような存在で」

(え、皇子にはそんな風に見えたの?私はそんなんじゃないのに……)

 佐由良は、また彼の機嫌を害してしまったのかと思って、思わずうつむいてしまった。

「別に、お前は今大和にいる訳だから問題はない。まぁしいて言うなら、もう俺の前でその男の話しはするな」

(こいつの口から、他の男の話しを聞くとどうも苛立ってくる)

「分、分かりました。そう致します」

 佐由良は皇子に怒られずに済んだのでほっとした。

(しかし、佐由良が吉備でそんな待遇を受けていたなんて、全く知らなかった)

 瑞歯別皇子は思わず佐由良の腰に腕を回し、自分に引き寄せた。

「瑞歯別皇子!」

「佐由良、もう俺はお前の事を嫌ってはいない。だからこれからも大和にいろ」

 そう言って皇子は、彼女に顔を近づけた。

(え、何これ!)

 佐由良が思わず目をつぶった瞬間、彼女の肩に皇子は持たれた。
 そして「スゥー」と寝息が聞こえて来た。

(もしかして、お酒に酔って寝ちゃったの)

 彼は政り事の仕事で、きっと疲れ果てているのだろう。ここ最近はずっとこんづめ状態だったはずだ。  

「はぁーびっくりしたわ」

 佐由良はそっと皇子を横に寝かせて、布を被せてやった。

「じゃあ皇子、私は仕事に戻りますね」

 そう言って佐由良は皇子の部屋を後にした。

 移動中、お酒で酔っていたとは言え、もう自分の事を嫌って無いと言われて、佐由良はとても嬉しく思った。

(でも皇子ってお酒が入ると、ちょっと大胆になると言うか、いつもと雰囲気が違うのね。少し心臓の鼓動が早くなってる……)

 その後しばらくして、皇子もふと目を覚ました。

「あれ、確かここに佐由良が来て一緒に酒を飲んでいたはず......あいつ帰ったのか。確かあいつの吉備での話しは覚えているが、それ以降があやふやだな。何か変な事を言ってないと良いが」

 その後、皇子は残りの仕事に取りかかった。