そうして二人は、しばらくお互いに相手のお酒を入れて飲み交わした。

「そう言えば、お前の故郷は吉備だったな。吉備の里もこの時期は寒いのか」

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が急に佐由良の故郷について聞いて来た。

「そうですね、今の時期は吉備も結構寒いです。でも大和の方が寒い気がします」

 ふと佐由良は吉備の海部の事を思い出した。

「私は海部の乙日根(おつひね)の孫と言っても、他の親族に預けられて暮らしてました。そこでは冬の寒さを凌ぐ為に、よく山に薪を取りに行ったり、あと水を汲みに川に行かされたりもしてました」

「何、吉備の姫がそんな事をしていたのか」

 瑞歯別皇子はその話しを聞いてとても驚いた。普通の豪族の姫がやるような仕事とは考えられない。

「私の母親は、乙日根が使用人に産ませた子で、そんな母も他の族の誰かも分からない人との間に私をもうけました。だから私は一族内では厄介者でしか無かったんです」

「だからお前、前に吉備には居場所がないと言っていたのか」

(てっきり、吉備で何不自由なく暮らしていたんだとばかり……)

「ただ、そんな私にも優しく接っしてくれた人もいました。一人は黒日売(くろひめ)の叔母様と、もう1人は従兄弟の阿止里(あとり)って子です」

「黒日売はもちろん知っているが、阿止里ってやつは初めて聞いた。お前の従兄弟って事はそいつも乙日根の孫か」

「はい、阿止里はお祖父様の後継者にと考えられて来ました。私が嫌がらせにあった時もよく庇ってくれて、ただ彼に迷惑をかけたくなくて、自分からは余り話しかけられませんでしたが」

「ふーん、そうか」

 瑞歯別皇子は素っ気なく言った。

「あと私が吉備を立つ時も、お祖父様の目を盗んで会いに来てくれました」

(阿止里、今頃元気にしてるのかな……)

 ふと、佐由良は故郷にいる彼の事を思い返す。彼は佐由良にとって、故郷の族の男性の中で、唯一優しく接してくれた青年だった。

 そんな彼の事を考えていると、ふと笑みがこぼれる。