「え〜っと、佐由良って言ったけ。例えそうだとしても僕は君に感謝してる。本当に有り難う」

雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)……」

 佐由良自身には兄弟はいなかったが、もし自分に兄弟がいたら、こんな風に心配したのだろうか。やはり命の尊さを忘れてはならないと感じた。

「兄上も、君が重症になってから中々側を離れようとしなかったって言うし、兄上でもそんな事有るんだな〜と、ちょっと驚きもしたんだよ」

「え、側を離れなかった?」

 佐由良は一瞬ポカーンとした。

「お、おい、雄朝津間、何言ってるだ!」

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は思ってもない事を言われ、急に慌て出した。

「え、この宮の人達が皆言っていたよ。あの時は兄上が中々佐由良の側を離れようとしなくて困ったって」

「あの時は自分を庇って傷を負わせてしまった訳で。それに吉備に対しても示しがつかない……」

「ふーん、そうなんだ」

 瑞歯別皇子は分が悪いのか、そのまま黙ってしまった。この事を佐由良に知られるのは相当恥ずかしかったのだろう。

(皇子が私の事を心配してずっと側に居たって......まさか、そんな事ってあるの?)

 瑞歯別皇子は最初、自分の前には余り現れるなとまで言っていた。それが皇子自ら側にずっと居たなんて、本当に意外だ。

「とにかく、佐由良もこの事はもう忘れろ。雄朝津間ももうそんな話しするんじゃない。分かったな」

(皇子は私の事を一体どう思っ待てるんだろう。もう憎いとは思ってないのかしら。)

 佐由良もちょっと聞いてみたいと思ったが、皇子が話しを終わらせようとしてるのでこれ以上は聞く事が出来ない。

「うーん、なんかうやむやだけど、兄上に怒られそうだからやめておくよ」