瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)、佐由良です。何かご用でしょうか」

 佐由良は急に瑞歯別皇子に呼ばれて、皇子の部屋にやって来た。

「佐由良か、中に入れ」

 皇子にそう言われ「では、失礼します」と言って彼女は中に入った。

 するとそこには瑞歯別皇子と一緒に若い少年が1人座っていた。見た目で言うと10歳前後ぐらいだろうか。

(一体誰だろう?)

「瑞歯別皇子、こちらの方は……」

「弟の雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)だ」

 瑞歯別皇子は素っ気なく答えた。

「こ、これは雄朝津間皇子。大変失礼しました」

 佐由良は慌てて頭を下げた。

「あ、僕は全然気にしてないから良いよ。それより顔を上げてちょうだい」

 そう言われて佐由良は顔を上げた。

(この子が、あの噂の雄朝津間皇子……)

 雄朝津間皇子はニコニコしながら、彼女を見ていた。他の兄達と比べてとても若い為か、どっちからと言うと可愛らしいと言う印象だった。

「急に呼び出してごめんなさい。どうしても僕、吉備のお姫さまを見てみたくて。何でも兄上を体を張って守ってくれたんだって。本当にありがとう」

 それは前回の瑞歯別皇子の暗殺計画の事だろう。

「そんな、あれは私にも落ち度がありましたし、逆に瑞歯別皇子にも迷惑を掛けてしまいました」

 佐由良はふとその時の事を思い返した。あの事件は確かに怖い出来事で、自分も重症を負う羽目になってしまった。ただあの時はどうしてか、瑞歯別皇子を助けたいと強く思ったのだ。

 もしかすると、住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)と同じような思いをもうしたく無かったのかもしれない。