佐由良は乙日根の元から帰る途中、叔母にあたる黒日売の所に寄る事にした。
黒日売は海部の中でも佐由良を認めている数少ない人物である。
そして大和に嫁いでいた彼女なら、きっと自分の相談に乗ってくれると思ったのだ。
「叔母様、いらっしゃいますか」
「あら、佐由良。どうしたのこんな急に」
黒日売は彼女の急な訪問にも嫌な顔をせず、すんなりと彼女を部屋の中に招き入れた。
そして彼女を自分の前にそっと座らせた。
「佐由良、あなたが来てくれるのは本当に嬉しいけど、一体どうかしたの?」
すると佐由良は言った。
「実はさっきお祖父様の所に呼ばれて行っていたの」
「え、お父様に」
「今度大和に采女を差し出す事になって、その差し出す娘を私にするって」
佐由良は先程乙日根と話した事をそのまま黒日売に伝えた。そして大和に行く事はもうすでに決まってしまった事も。
「そう、お父様はそんな事を決められたのね。確かに大和に送る娘としては、あなたが選ばれてもおかしくはないわ」
「叔母様、私は大和になど行きたくない。ずっとこの海部で暮らして行きたいの。でもお祖父様はもう決めてしまっているし……」
それから佐由良はそのまま顔をうつむいた。するとまた涙が込み上げて来る。
「大和に嫁いで、そこでの生活に耐えきれずに戻って来てしまった私が言うのもなんだけれど。佐由良なら大和でも強く生きていける、そんな気がするわ。私とあなたは違うもの」
「叔母様」
「私も初め大和に嫁いだ時は、本当に不安でしかたなかったわ。周りに味方になってくれる者もいなくて。でも大雀の大王はとても優しく接して下さった」
黒日売はふっと過去の出来事を思い返した。
黒日売が嫁いだ大雀の大王は、聖帝の名に相応しく、とても民の事を大事にしていた。
磐之媛の嫉妬と陰謀の為に、吉備に戻って来た時も、わざわざ吉備まで会いに来てくれた。
しかしそれが黒日売が大王と会うのは最後となってしまった。
そして最近その大雀の大王が崩御した。それは黒日売にとっても酷く悲しい出来事で、その知らせを聞いた時は、部屋に籠って一晩中泣いていた。
そんな中、今度は姪の佐由良が采女として倭に行く事になるとは何とも不思議な事だ。
黒日売は海部の中でも佐由良を認めている数少ない人物である。
そして大和に嫁いでいた彼女なら、きっと自分の相談に乗ってくれると思ったのだ。
「叔母様、いらっしゃいますか」
「あら、佐由良。どうしたのこんな急に」
黒日売は彼女の急な訪問にも嫌な顔をせず、すんなりと彼女を部屋の中に招き入れた。
そして彼女を自分の前にそっと座らせた。
「佐由良、あなたが来てくれるのは本当に嬉しいけど、一体どうかしたの?」
すると佐由良は言った。
「実はさっきお祖父様の所に呼ばれて行っていたの」
「え、お父様に」
「今度大和に采女を差し出す事になって、その差し出す娘を私にするって」
佐由良は先程乙日根と話した事をそのまま黒日売に伝えた。そして大和に行く事はもうすでに決まってしまった事も。
「そう、お父様はそんな事を決められたのね。確かに大和に送る娘としては、あなたが選ばれてもおかしくはないわ」
「叔母様、私は大和になど行きたくない。ずっとこの海部で暮らして行きたいの。でもお祖父様はもう決めてしまっているし……」
それから佐由良はそのまま顔をうつむいた。するとまた涙が込み上げて来る。
「大和に嫁いで、そこでの生活に耐えきれずに戻って来てしまった私が言うのもなんだけれど。佐由良なら大和でも強く生きていける、そんな気がするわ。私とあなたは違うもの」
「叔母様」
「私も初め大和に嫁いだ時は、本当に不安でしかたなかったわ。周りに味方になってくれる者もいなくて。でも大雀の大王はとても優しく接して下さった」
黒日売はふっと過去の出来事を思い返した。
黒日売が嫁いだ大雀の大王は、聖帝の名に相応しく、とても民の事を大事にしていた。
磐之媛の嫉妬と陰謀の為に、吉備に戻って来た時も、わざわざ吉備まで会いに来てくれた。
しかしそれが黒日売が大王と会うのは最後となってしまった。
そして最近その大雀の大王が崩御した。それは黒日売にとっても酷く悲しい出来事で、その知らせを聞いた時は、部屋に籠って一晩中泣いていた。
そんな中、今度は姪の佐由良が采女として倭に行く事になるとは何とも不思議な事だ。