「所でさ、せっかく兄上の所に来たんだし、しばらくここに泊まっていっても良い?」

「はぁ?」

「父上と母上が死んじゃって、大王になった去来穂別(いざほわけ)の兄上も色々と忙しそうだし。何か一人だと寂しくて……」

 雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)はシュンとしながら言った。まだまだ家族が恋しい年齢なのだろう。

 雄朝津間皇子は、元々先の大王である大雀大王(おおさざきのおおきみ)の宮で暮らしていた。だが大王が崩御した後は今の大王である去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)の住んでいる磐余稚桜宮(いわれのわかざくらのみや)に移っていた。

「お前、まさかここに来た本当の理由はそれなんじゃ?」

「 まぁ、そう言われると否定出来ないけど」

 雄朝津間皇子は瑞歯別皇子に無邪気にそう答えた。

 そんな事を弟皇子から言われて、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は思わずガクッと肩を落した。

(まぁ、この歳じゃ仕方ないか)

「分かった、暫くここにいろ。ただ俺だってそんなに暇じゃない……」

「わぁ、兄上有り難うー!」

 雄朝津間皇子は大声で喜んだ。

(やれやれ、ここにしばらく滞在出するのがそんなに良いものなのか)

 ただ、ここ最近は嫌な事ばかりだっので、弟がいれば気持ちを持ち直すのに良いかもしれない。瑞歯別皇子は大喜びしている弟を見て、そう思った。