「兄上、それって誉めてるの、けなしてるの?」

「まぁ、どっちもそうだ。とりあえず、俺はお前を疑ってないから安心しろ」

 雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)もそこまで言われると、反論が出来なくなる。

「うーん、何かいまいち納得いかないけど、兄上が分かってくれてるんならそれで良い」

(はぁー何とも世話のかかる弟だな)

 とは言っても、同母の兄弟である雄朝津間皇子は、自分にとってはかわいい弟なのだ。こんな弟を殺すなんて事は、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)もしたくはないと思った。

「それにしても、兄上が住吉仲(すみのえのなかつ)の兄上を殺したって事で、僕の家臣達の間でも、恐れを感じた人が多くて、兄上はそんな怖い人じゃないよって説明するの大変だったんだから」

「俺が怖くないだと?」

「だって、そうでしょう。確かに瑞歯別の兄上は、住吉仲の兄上の暗殺を企てたけど、自分自身が直接殺さなかったじゃない。住吉仲の兄上を殺したやつはあっさりと殺せるのに。それってつまり、兄上は実の兄弟を殺すのが嫌だったんでしょう」

 雄朝津間皇子は、瑞歯別皇子を真っ直ぐ見て言った。

「雄朝津間、お前……」

 瑞歯別皇子はその先の言葉が口から出てこなかった。

「だから、兄上は本当は優しい人なんだよ」

(まさか弟の雄朝津間から、こんな事を言われるとはな。)

「お前には、時々ヒヤッとさせられるな。いいか、人を殺す時は無情にならないと出来ない。そこに同情なんてしたら油断ができて、下手したら自分がやられてしまうからな」

(だが雄朝津間が言ってる事は間違ってはいない。もし自身で殺そうとしたら、迷いが出て出来なかったかもしれない)

「ふぅーん。まぁ、それでも良いさ。とにかく兄上が元気そうで良かった」

 とりあえず雄朝津間皇子は納得したようだ。