その後嵯多彦達(さたひこ)の消息は分からないと、葛城側かも連絡があった。
 その為、またいつ何どき瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)の命を狙って来るかも分からない状況だ。

 その為に宮の者達も日々妙な緊張感を持ちながら過ごしていた。そしてそんな中、今度は皇子の身内からの訪問があると連絡が届いた。


「何でこんな時にやって来るんだ……」

 瑞歯別皇子は部屋で一人やれやれと頭を抱えていた。

 すると、皇子の家臣が彼の元にやって来た。

「皇子、弟君の雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)が到着されました」

「あぁ、分かった。ここに通して来れ」

 瑞歯別皇子がそう伝えると、家臣は「分かりました。直ぐこちらにお連れします」と言って部屋を出ていき、しばらくして1人の少年を連れて戻って来た。

「兄上、お久しぶりです」

 瑞歯別皇子の前に、その少年が座った。見た目は11、12歳程の、まだ幼さの残る面影があった。

「雄朝津間、何でこんな時にやって来るんだ。危ないとは思わなかったのか」

 住吉仲皇子の謀反や、嵯他彦の事件があった直後の為、皇子も何かと気が気でない。

「住吉仲の兄上の謀反があり、さらに先日は兄上自身も命を狙われたそうじゃないですか。だから今後同じ事が起きないよう、僕自身は兄様2人と対立する気はないって伝える為、それでわざわざ来たんだよ」

 雄朝津間皇子は、ちょっとむすっとしながら答えた。

「人を疑ったり、憎んだりする事もしないお前が、謀反なんて起こすとは誰も思ってない」

(第一それなら、こんな簡単にここに通したりはしないだろうに)