佐由良は、必死で皇子に願い出た。

 そう言って、思わず彼女の目からポロポロと涙が出て来た。

「もう、人から必要とされないのは嫌なんです……」

 それを聞いた瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)はとても驚いた。

(一体コイツの過去に何があったんだ。)


「分かった。お前がそこまで言うなら、引き続きこの宮にいなさい。今後はこのような事が起きないよう、こちらも今まで以上に注意するようにする」

「本当ですか!瑞歯別皇子、有り難うございます」

 佐由良はまたふたたび頭を下げた。

「ふうー、今はお礼は良いから頭を上げないか」

(コイツに泣かれるのはどうも苦手だ)

 皇子にそう言われて佐由良は顔を上げた。

 そして手で涙を吹きとると、思わず彼に笑顔を見せた。吉備に帰らなくて良いと聞いて、よっぽど嬉しかったのであろう。

 そんな彼女の表情を見た瞬間、瑞歯別皇子は一瞬体が固まってしまった。

(お前が始めて俺に笑顔を見せたな……)

 瑞歯別皇子は、何故か彼女の笑顔を見るのが嫌ではないと思った。むしろとても安心する感じがした。

「では、今回はここまで。下がって良いぞ」

「はい、分かりました」

 そう言って佐由良は立ち上がり、お辞儀をしてから部屋を出ていった。

 佐由良が出ていった後、瑞歯別皇子は手を頭に当ててため息を付いた。

(はぁー、このまま手放せなくなるなんて事にならないだろうな)