(うーん、ここはどこ?)

 佐由良はふと辺りを見渡した。

 すると知らない女性と男性が立っていた。顔を見ようとしても、何故かはっきりとは見えない。

(何だろう、ひどく懐かしい感じがする)

「あなた達は誰なの?」

 その女性と男性は、佐由良に何か言っているようだが、何を言っているかは分からない。

 そこでその景色は消えていき、徐々に意識が戻ってきた。


 そして佐由良はふと目を覚ました。

「あれ、ここはどこ?」

「あら、佐由良。気がついたのね」

 気が付くと彼女は自分の部屋に横たわっていた。そして側にいたのは胡吐野(ことの)だった。

「胡吐野、私は一体……」

「あなた肩に深い傷を負ってずっと眠っていたのよ。でも何とか峠は越えられたようね」

「そうだ、私男の人に掴まって、皇子を助ける為に」

 佐由良が起き上がろうとした瞬間、肩に激痛が走った。

(い、痛た!)

「佐由良、駄目よ。まだ完全に傷が塞がった訳ではないんだから。しばらくは安静にしてなさい」

 そう言って胡吐野は佐由良を再度寝かせた。本当にこんな怪我を負って、よく無事でいられたものだと彼女は思った。

 胡吐野にそう言われた為、仕方なく佐由良は横たわったままの状態で彼女に話しかけた。

「私が意識を失った後はどうなったの。葛城の人達は捕まったの」

「いいえ、あいつらには上手く逃げられてしまったわ」

「そうなの」

(あの人達、最初から皇子の命を狙ってたんだ。それに私がまんまと使われたって訳ね)

 今思い出しても本当に震えが来る。

「あと瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)のへこみようは半端なかったわね。あなたをあんなに目合わせてしまったから」

「え、皇子が」

 それを聞いた佐由良はとても驚いた。確かに彼女が意識を失う瞬間、必死で自分に声を掛けてくれていたのは、何となく覚えていたが。

「自分のせいでまきこんでしまったと思ってるわ」

(あの、瑞歯別皇子がそこまで気にかけてくれてたなんて……)