(一体どうすれば。このままじゃ皇子が)

 佐由良は思わずその刃物を自分の肩に刺した。

「お前、何するんだ」

 その瞬間に嵯多彦(さたひこ)の腕が緩んだ。

「よし、今だ」

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が、つかさず嵯多彦を殴り付けた。

「おい、誰かいないか!」

 瑞歯別皇子はその場で大声で叫んだ。するとその声を受けてようやく家臣達がやって来た。

「嵯多彦様、これはまずいですよ」

「仕方ない、ここは一旦逃げるぞ」

 そう言って近くにとめてあった馬に乗り、嵯多彦達はいそいそと逃げて行った。

「皇子一体何事ですか」

 家臣達は皆この光景を見て驚いた。佐由良は肩にかなり深い傷を負おっていた。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ!」

「皇子、ご無事で良かったです……」

 だが、佐由良は意識がもうろうとしていた。

「おい、早く傷の手当てをしろ!!」

 皇子にそう言われ、周りがあわただしく動き出した。

「何とか持ちこたえてくれ、おい、佐由良!!」

(皇子が始めて、私の事を名前で呼んでくれた)

 そう思った瞬間佐由良の意識は途絶えた。