そして次の日。嵯多彦(さたひこ)は若宮の中を見て回っていた。どうやら供に連れてきた者達とは別行動らしい。

 ただ瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)も少し怪しんでいた為、嵯多彦達を見張るように家臣に言っていた。

 嵯多彦が歩いていると、また偶然佐由良に会った。
 佐由良は嵯多彦から声を掛けられるも、昨日の瑞歯別皇子との事があったので、軽く会釈だけしてその場から逃げ出してしまった。

(とりあえず、あの人とは話しをしないようにしないと)

 しばらく走ってから彼女は立ち止まった。

「まぁ、あと数日だけだしね」

「何が数日だって」

(え?)

 彼女が思わず振り替えると、そこには嵯多彦が立っていた。どうやら佐由良を追いかけて来たみたいだ。

「えーと、ごめんなさい。昨日あなたとの事で皇子から怒られてしまい。それでつい逃げてしまって」

「皇子に怒られた?」

(一体どう言う事だ……)

「はい、私は失礼な事はしてないと思うのですが、何故か皇子が酷くご立腹されてまして」

(ふーん、なる程。自分がこの娘を誉めたのが気に食わなかったのか)

「あなたは何も悪くない。多分私の言い方に問題があっただけだから。皇子がただ疎いだけの事なので」

(あの皇子、恐らくまだ気付いてないんだな……これは何とも面白い話だ)

「皇子が疎い?」

「あぁ、それはこちらの話し。とりあえずあなたが気にする事ではないですよ。皇子には私からも言っておくので安心して下さい」

「ほ、本当ですか。有り難うございます」

 佐由良はそれを聞いて少し気持ちが楽になった。

(確かにこの娘、本当にちょっと欲しくなる)

「佐由良そこで何をしている」

 佐由良は見張りの男性に呼ばれた。どうやら瑞歯別皇子の命令で、嵯多彦を見張っている男のようだ。

「す、すみません」

 佐由良は急いでその男に謝った。

(こんな所で道草でもされていると思われたら、叱られるかもしれない……)

「では、私はこれで失礼します」

 そう嵯多彦に言ってその場を離れた。

(なる程、何となくそうかなと思っていたが、やはり俺を見張っているのか。あの皇子らしいな)

 そして嵯多彦もまた歩き出した。